日常からの転落(3/7) ピッ…ピッ…ピッ… …っ!………っ!…… 機械音が聞こえる。 暗い闇の中… 誰かが何かを言っている様な気がする。 でもまだ身体は重たくて。 瞼を開けられなくて。 でも、返事がしたい。 わたしはここにいる、と。 ここがどこかは分からないけど… 感覚の伝わらない手は、誰かにしっかり握られている気がする。 何も伝わらないのに、あたたかい温もりを感じる… …ゆいっ!……ゆいっ!… ほら、あたしの事だ… 起きなければ。 なぜなら、この声が… 「えー…す…っ」 「ゆいっ!」 少しずつ目を開けば、ぼんやりとした視界から徐々にはっきり見える姿。 そんなの、見なくたって誰かぐらいは分かる。 ああ、馬鹿みたいに泣き垂らして。 起きたら、これか… 自分はどうやら、いつの間にか幸せ者になっていたらしい。 「馬鹿ゆい…! たく…心配させやがってっ」 泣き垂らした目を、自分のセーターでグシャグシャと擦るエース。 涙を拭ったつもりでも、エースの長い睫毛は濡れている。 「…あたし…生きてるんだな。」 「たりめぇだ! お前が俺に一言断らずに死ねる訳ねぇだろっ。」 「…理不尽な奴だ。」 ふっと笑うゆいの目にも、涙が溢れる。 生きてた。 そしてまたエースと会えた。 握られている手に感覚が戻り、握り返してやる。 「サッチ達がさっき見舞いに来てよ、何が起きたか全部話してくれたんだ。 お前、あの女子達を助けるために轢かれたんだってな…」 点滴の打たれているゆいの手を、あまり動かさないようにベッドの脇に腰を落とすエース。 そしてゆいと顔を寄せて、額を着けた。 ゆいは近いエースの顔に、視線のやり場を探しながら言った。 「アイツらは無事だったのか?」 「ああ。擦り傷だけで、今日も学校で騒いでたらしいぜ。」 「そうか。…ってお前、今日学校に行ってないのか?」 視線を恥ずかしそうにキョロキョロさせていたゆいが、パッとエースと目を合わせた。 ゆいの額には皺が寄る。 それを当てていた額で感じたエースは優しく笑って言った。 「ゆいがいつ起きるか分かんねぇからな。 …それに、ゆいがいねぇ学校なんて意味ねぇだろ。」 「お前は…ホントに馬鹿者だな…」 呆れたように言うが、顔は嬉しそうなゆい。 そんなゆいから額を外し、エースはゆっくりゆいに唇を重ねた。 ← | → |