日常からの転落(2/7) 白線が引かれているを渡るゆい。 何か違和感を感じる。 右…左…視線を動かせば、すぐに何が変だったかなんて分かった。 信号を無視して、こっちに来ようとする大きなトラック。 そのトラックの行き先を先に察したゆいは、身体を動かした。 間に合ってくれればいい。 彼女たちと一緒に向こう側に倒れれば、皆が助かる。 すぐにゆいの頭の中では計算された。 しかしゆいの足の速さは計算出来ても、今のトラックの速さは予想外だった。 間に合わない。 トラックの今の位置を見て思った。 ならばどうすればいいか。 そんなこと、すぐに思いついた。 相手は5人。 こちらは1人。 向こう側へ倒れるには、トラックより先に自分の身体が彼女たちの所へと着かなければならない。 だがそんなに時間に余裕がない。 腕の長さぐらいだったら、トラックよりほんの少しだけ先に着ける気がした。 地面を強く蹴ったゆい。 5人をほんの僅かな時間で弾く事は、今までの経験的にできないことではない。 カッターで腕を切られたから何だ。 校則違反のうるさい女子だから何だ。 奴らは同じ人間だ。 ゆいは2人ずつ、両腕で横から強く押した。 それは自分でも驚く程早いスピードだった。 こんなに焦ったのは、エースに何かをされた時以来だ。 女子生徒を無事に全員押したゆいは安心して瞳を閉じた。 この一瞬が凄くスローモーションに感じた。 自分は死んでしまうのか? 身体が頑丈なことには自信があったのだが。 トラックに引かれて生きていれば、相当頑丈な奴だと言えるだろう。 しかも、こんなに真っ正面から。 馬鹿だ。 自分は本当に馬鹿な奴だ。 こんなに勉強して、 馬鹿な奴を見下してきたのに。 業績を残すどころか、大学入試前に事故死だ。 何のために頑張ったのかがよく分からなくなるな。 自分がこんなんじゃ、エースに怒られてしまう。 馬鹿で賢いエースに… 死んでしまえば関係ない。 でも、どうしてだろうか…? 小さい頃は母さんが死んだ後は、ずっと死にたいって思っていたはずなのに… 父さんが女を連れて帰るようになった時も、何のために生まれてきたのだろうとか… 死ぬこと、怖くなかったはずなのに。 エースを考えたら… せっかく馴染めたクラスを考えたら… 悔しいくらい、死ぬのが怖い。 迫り来るトラックの運転手さんの、驚いている顔がスローで見える。 自分も吃驚だよ。 まだ勢いのあるトラックに突き飛ばされ、急に身体が重くなった。 体中が熱くて、 起きあがれないくらい重くて… 瞼が自然に閉じた。 ← | → |