堕落論、それもよし(6/6) エースの悲しい声が、自分の耳の少し上から聞こえた。 「…俺が原因なんだろ?」 「ち、違うッ!」 ゆいはバッとエースの胸から顔を離して、エースと向き合う形で両腕のセーターを掴んだ。 エースが悪い訳ではない。 それに、こんなエースの悲しそうな声に堪えられる気がしない。 エースのせいじゃない。 「ゆい?」 「違う…んだ。 エースは悪くないんだっ」 「俺と付き合ってるから、やられたんだろ…?」 「奴らの気に障る事を言ったのはあたしだ…! それにカッターだって、全部弾けると思ってたから…油断しただけだ…から…っ」 、なんでだろう… エースの声を聞いていると目の奥が熱くなる。 エースは悪くない。 エースは自分を責めないで欲しい。 エースが自分を責めれば、きっと一緒にいない方がいいって思われてしまうから。 遅刻したっていい。 授業を一緒にサボったって別にいいから… 今さら一人にしないで欲しい。 こんなこと、口では言えない。 上手に話せないだろう。 「なに泣いてんだよ。」 ふっと笑ったエースが、再びゆいを抱きしめた。 優しいエースの声に、今まで取り乱していた心が落ち着いていく。 「…まだ誰も何も言ってねぇだろ。勉強しかねぇ頭で俺の心読もうなんざ100年早ぇよ。」 くしゃくしゃっとゆいの頭を豪快に撫でるエース。 いつもの手つきで、いつもの馬鹿なエースの声だ。 「…誰が悪いっつったら、女子だろ?」 「まあ…な。」 「なら女子が悪い。」 「…日本版の語学の教科書を買ってやろうか?」 ツッコミの鋭さがゆいならではだ、と笑うエース。 だがゆいも、気が抜けたようにエースにつられて顔の力が緩まる。 「ゆいの彼氏は俺なんだ。 俺がゆいのことちゃんと見ときたいし、護ってやりたいんだ。」 「…あたしを?」 「他に誰がいるんだよ。」 中指で額を弾かれるゆい。 濡れた大きな瞳が一瞬隠される。 開いた瞳に、いつものように睨まれるエース。 「普通は、そうなのか…。」 「んだよ、普通って。 俺らだって普通だから、ゆいが何と言おうと俺はゆいに手出す奴は黙ってねぇからな。」 ニカッと笑うエース。 こんなことを学園祭の時も言っていた気がする。 喧嘩したら自分よりきっと強いエース。 こいつになら護られるってのも悪くない。 結局、チャイムが鳴るまで保健室で授業をサボった2人。 2人がいない教室では、サッチを中心に何やらやましい会話をしている事は勿論知らない。 continue... ← | → |