堕落論、それもよし(4/6) そうしている間に、すぐそこの廊下の曲がり角で目を見開く生徒が1人いた。 目のいい彼…エースは、その赤いティッシュが何なのかを一瞬で感づいた。 「おい、ゆいッ!」 角から大きな声で呼ばれ、凄いスピードで走って来るエースを見つけた。 エースの酷い焦り様に対して、ゆいは至って無表情にエースに言った。 「今何時だと思ってるのだ? 遅刻というレベルではないだろう。」 「この状況で説教すんのかよ!?」 いつも通りのゆいに、エースの焦りも少しだけどこかへ消えてしまう。 エースは取りあえずゆいの逆の手を引く。 「お前ら次の授業、俺とゆいは保健室だって言っといてくれ。」 「わかったよい。」 「ま、待て! あたしは平気だし、授業は受けれる!」 「馬鹿ゆい、血止まらないんじゃ授業どころじゃねーだろ。」 「それに今日は課題の提出日…「だー、わかったわかった。後から俺と提出しに行きゃいいだろ?」 ゆいの手を引いて、結局エースは保健室へと説得した。 まあ実際には保健室へと向かいながら説得しているのだが。 姿が見えなくなっても、エースの声が聞こえる。それを聞いていた残り2人は、苦笑した。 「今日はいつもと逆パターンだな。」 「ゆいを叱るエースってのも、案外違和感ないよい。」 食堂で買ってきたジュースを再び口にしながら、水道から立ち去る2人がいたとか。 ガラガラ… ドアを開けば独特な匂いに包まれる。 白いカーテンや白いベッドに白いテーブル。 白一色でまとめられたこの部屋には、誰もいなかった。 「…誰もいねぇな?」 「明日まで出張だと、一昨日の朝礼で言っていただろ。」 「よく覚えてんなあ、」 相変わらずな優等生っぷりに、思わず苦笑が出るエース。 まあエース的には誰もいない方が嬉しかったりするのだが。 一先ずゆいを保健室の中へと入れて、ドアを閉める。 傷口を押さえていたティッシュを捨てたゆいは、再び水で傷口を洗う。 ゆいがそれをしている間に、エースは勝手に保健室の薬箱をいじりはじめる。 白いテーブルに薬箱を乗せれば、今の手当に必要そうなのを全て出した。 洗い終わったゆいは、大量のティッシュを腕に当てながらエースの隣に座る。 ← | → |