堕落論、それもよし(3/6) 教室を出たところで、サッチとマルコが前方から歩いて来るのが見えた。 2人の手には食堂から買ってきたジュース。 え、と目を丸めた2人はゆいに言った。 「おいゆい、どうしたんだそれ!?」 「何があったんだよい?」 「新しい本を読んでたら、切れたんだ。」 「「んなわけあるかーッ!」」 ゆいは相変わらず足を止めることなく歩くので、マルコとサッチは来た道を戻っている状態だ。 ゆいが怪我をするなんて、珍しい。 怪我をする前に、その野郎をぶっ飛ばしているはずだから。 しかも、明らかに凶器で刺されたような傷口。 水道まで着いたゆいは、大きく捻った蛇口の水を傷口へと当てた。 少し痛むのか、ゆいの無表情だった顔が歪んだ。 当たり前だ。 誰だってこんな傷を負えば、痛いに決まっている。 「…誰がやったんだよい。」 ポケットから出したティッシュをゆいに渡す。 蛇口を止めたゆいはそのティッシュを何枚か取り、傷に当てる。 「女子だ。 あの目障りな色の髪をした。」 「ああ、あいつらか…」 これだけの説明で特定できるほど、彼女達は目立つ存在だった。 ゆいの事は眼中になかった筈の彼女達。 が、突然ゆいに手を出した。 しかも、ケンカが強いのを知りながら。 「…なんでゆいがやられてんだよい?」 気になったのは、そこだ。 あのゆいがケンカにおいて、傷を作るなど前代未聞だ。 しかも女子なんかにやられるなんて。 そのマルコの問いに、ゆいはふっと難しそうに笑って言った。 「女子を殴ったら、またあたしに怖い印象が付くだろ?」 だから弾いただけ。 正直言って、殴り慣れたゆいの拳は弾く方が難しい行動だ。 そんなゆいの言葉に、2人は絶句する。 ケンカをするゆいにも、ちゃんとマナーがあったのだ。 「馬鹿だろ、お前…。 状況に応じては、女子でも殴っていいだろっ!」 「いや、寧ろ殴るべきだよい!」 なぜかゆいより取り乱している2人。 ティッシュが無意味な程に湿って色をつけるゆいの血。 それを見て、絆創膏か何かを探すマルコとサッチ。 ← | → |