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窓際ムルチコーレの一生(3/3)








待て、と言いたげな覚束ない片手のジェスチャーが伝わる。

もう片方の手が鼻を覆ったとき、淡い期待が胸に押し寄せる。



きたんじゃね?



ずっと見続ければ、その視線を擽ったく感じたのか後を向こうとするゆい。



「ゆい……?」



「………」



「出るか?」



「………っ、止まった、」



「嘘だろ…っ」



張り詰めた緊張感が解されて、ゆいはふうっと息を吐いた。


いや、全然ふうっじゃねぇよ。

目と耳に自分の中の相当な神経を今、費やしたと思うぞ?


何食わぬ顔でまた本を探し出したゆいにストップを掛けたくなる。



「ゆい、くしゃみは?」



「だから止まったと言っているだろ?」



「…なあ、まさか俺があんなにして欲しいって言ってたのに、くしゃみ止めたのか?」



「……くしゃみを止めて何が悪い。」



「止まったんじゃなくて?」



「止めたんだ。」



「こんやろーっ」



一瞬だけ笑みを浮かべたゆいに、迷わず髪を乱してやる。


こいつは自分の中ではM体質…それも、ドを付けても過言ではない程のものだと思っていたけど。


長く柔らかい髪の毛をくしゃくしゃにしてやれば、ゆいはまだ笑ってやがる。


楽しそうに笑ってくれれば、何も意義はないけどよ。

なんて思いながら、何が面白かったのか釣られて笑ってしまう。



「ふふっ、やり過ぎだ馬鹿。」



「ああ?くしゃみ止めた方が重罪だってんだよ。」



「そんな話は聞いたことがない。」



鞄を床に落とせば、今日はいつもより挑発的なゆいの甘い挑発を受けて立つ。

そんな意味に捉えられてしまうとは考えもしてないだろうに。



そのまま本棚へとゆいを追い込んで行けば、流石に場の悪さに気づいたのか、逃げ場を探しはじめる。



まあ今さらそんなことさせる余裕なんて与えてやらないが。



「エース、//」



「誰もいねぇだろ?」



「そういう問題ではない!//」



すぐに頬の色を染めるゆい。そんな顔してたら、いくら否定的な言葉を吐こうが言葉の重みはなくなる。


ゆいの手が胸板を押すのも、いつもみたいに頭がかち割れる程ペンを振る力とは比べものにならないほど弱いもの。



こういう場面に弱いというのが本当に解りやすい。



「ここは図書室だ…ッ//」



「燃えるよな、こういうの。」



「〜〜〜ッ//
燃えるわけない!///」















「ゆい?」



「馬鹿…ッ//」



ゆいが発したその言葉は、明らかに"好きにしろ、"と言っている様に吐かれた。







end








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