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窓際ムルチコーレの一生(2/3)







いや、確かにゆいの言う通りくしゃみを今すぐ出せといわれても無理だろうけどよ。

もう一度見なければ、無駄に速くなった鼓動がこれから先ゆいのくしゃみを一々気にかけながら時間を過ごさなければならなくなる。



今のは奇跡だったのか?

そう言えば転入して来て結構時間が経つけれど、ゆいのくしゃみは一回も見たことがない気がする。



あんなに可愛いくしゃみをするなんてサッチの情報にもなかったぞ。



「ゆい、コショウは持ってねぇけどティッシュはあるぜ?」



「紐状にして鼻に詰めろと言いたいのか?」



「さすが学年次席!」



「ふざけるな、厭味にしか聞こえない。」



成績コンプレックスはだいぶ収まってきたゆい。

そんな彼女の傷をえぐるような褒め言葉。


ティッシュを鞄から素早く出せば、そのティッシュを引ったくる様に掴み、少し遠めに設置されてあるごみ箱へと見事なコントロールで投げ込んだ。



駅前で配られたティッシュか勿体ない、なんて思う暇もなく、思わず拍手をした。


ふざけるな、と睨まれるが、睨んだ本人も無事にごみ箱に入ったことに満足している感じが少しだけした。



「ゆい、本探すか。」



「…なんだ、急にっ」



「俺、くしゃみについての本が読みたくなったから探してくれよ。」



「そんな本を探す暇があるのなら、"激戦抜刀海兵記録雑学収録集"を探せ。」



「…お前、すげぇ本読むのな、」



んな本聞いたことねぇよ。

似たような本、この間も読んでなかったか?


ハリー○ッターでも、分厚くて途中でギブアップしたくなるのに。



勉強に関しての集中力はただ者ではない。


再び綺麗な長い指で分厚い本の並んだ棚の列にスーッとラインを引いていく。



それよりくしゃみだ!
くしゃみを直ちにして欲しい!



「ゆい、お前もしかして花粉症とか…?」



「どの花粉に対しても、わたしの鼻は反応したりしない。」



「あー、じゃあ俺の枕に反応してくれたり…「するかッ!」



大体なんで今、咄嗟に枕が出てくるんだ!なんてツッコミが飛んでくる。


授業中、こいつは俺の大事なパートナーでもあるんだ。
わかってねぇな、ゆいは。


そんな言葉を放てば、聞いているのかそうでないのか、イマイチ解らない微妙な反応で無視しやがった。


くしゃみをした時は誰より女らしかったのによ。



「ゆい〜、くしゃみしろよ。」



「そんな事をしている暇はない。」



「暇って…、くしゃみにどれだけ時間かけるつもりだよ、」



「時間も何も、くしゃみなど…………」



「くしゃみなど?」



言葉がピタリと止まったゆいを見つめる。


大きな瞳に涙が溜まっていく気がした。





 








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