最後にお前が笑えばいい(4/4) エースは見えない。 パッと視線を上げたゆい。 そこはぬいぐるみの棚だった。 趣味の悪いぬいぐるみから、普通のぬいぐるみまで数多くあった。 ゆいは手前においてあるぬいぐるみに釘付けになった。 「…可愛い。」 それは白くまのぬいぐるみ。 思わず手に取った。 こんな自分でも、これには可愛いと思ってしまう。 普通に考えれば変な図なのだろうが。 やっぱり好きなものは好きなのだ。 驚かされて忙しかった心臓はいつの間にか大人しくなり、顔の筋肉が緩む。 「へー、そんなの好きなんだなあ?」 「あ…いやっ、」 「意外と女の子らしいのな、」 「べ、別に好きなんかじゃ……!」 いきなり現れたエースに、持っていた白くまを荒々しく元に戻す。 自分でもその行動にあっと思ってしまう。 似合わない、と笑われるのがどうせオチなのだろう。 置いた白くまを見ていれば、エースがそれを手に取る。 「可愛いな、このくま。」 「え……っ」 思わずエースの方へと目をやる。 それはまるで白くまと睨めっこでもしているかのような光景で。 白くまから目を離したエースは、白くまの並んでいた段を見る。 あと一つ、同じのが置いてある。 それをもう片方の手に取る。 「よし、買うか。」 それがどういう意味なのか、ゆいにでも解った。 目を丸めたゆいに、エースはニッと笑った。 「欲しかったんだろ?」 「だから、欲しくなんて……」 「じゃあ俺が欲しいから、ゆいは俺に合わせておそろいの。」 完璧だな?なんて振ってくるエース。 どこがどのくらい完璧なのか説明が欲しいところだが、ゆいは何も言わなかった。 おそろいの、その言葉に引っ掛かったからだ。 エースがレジで会計を済ませる。 店員がこちらをチラッと見て、笑って別々の袋に入れてくれた。 戻ってきたエースに、目も合わせずに一言だけ言った。 「エース…、そ、その……ありがと…//」 エースは目を細めて袋を一つ、こちらに差し出す。 「おう。」 ゆいは差し出された袋を受け取る。 中を覗けば、やっぱりそのぬいぐるみが可愛くて。 袋の中へ喋り掛けるみたいに、ゆいは小さな声をエースへ放った。 「…本当は欲しかった。」 「んなの知ってるって。」 趣味あうな?と付け足すエース。 少し恥ずかしそうにしていたゆいも、それに笑って頷いた。 end ← | → |