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拾われなかった欠片の話 (3/4)








「突然な、反対側からバーを跨いだ男が線路に入ってきて……っ」



よくあること、と言えば、そうなのかも知れない。

だが実際に目の当たりにするのはきっと誰だって辛いだろう。


それがいかに神経が図太そうなゆいであったとしても。



「あたしが行けば、きっと間に合ってたのに…」



そんなに速い電車がすぐそこまで迫っていた訳でもなく、普通のスピードの電車が見えてきたくらいだったのに。


確かに、ゆいの運動神経は優れていることくらい誰でも知ってるくらいだ。


でも、もし自分がその場に鉢合わせたとしても、見ず知らずの男を助けられなかったことをそこまで悔やんだりはしないだろう。



「…その男がな、撥ねられる時に嬉しそうに泣いてたんだ。
それを見たら足が動かなくて……っ」



要は"死にたかった。"って奴なのだろう。


そりゃあ死にたくない奴が踏切になんて踊り出ることはないだろうが。

比較的に客観的な思考のゆいには少しだけ難しい話なのかも知れない。



今は楽しそうに生きてくれているゆいには。



「それでよかったんじゃねぇの?」



「え……?」



「そいつの人生は、そいつのもんなんだ。
どこでピリオドを打とうと、喜ぶのも後悔するのも結局は自分だろ?」



「だ、だが……っ」



言葉が上手くまとめられないのか、詰まってしまうゆい。


どうやら言いたいことはそういうことではないらしい。

少し間を空けたゆいは、再び唇を動かした。



「死ぬって…そんなに簡単なことなのか?」



ゆいが目にした"死ぬ"は、電車が男と接触してから目の前を通り過ぎるまでの一瞬。


もし俺がその光景を見ていたとしたら、きっと今のゆいと同じことを思うだろう。



そして、次に……



「あたし…昨日初めて死ぬのが怖いって思った。
そう考えてたら無償にエースに逢いたくなってきて……っ」



「俺もお前もここにいるから、安心しろ。」



きっと確認したくなる。

愛して欲しくなるし、今まで以上に愛したくなる。


家族との関係が上手くいっていないゆいなら、尚さら自分じゃなきゃいけない気がする。





 







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