嘘を巧く並べただけ(2/3) わざとらしく机へと足を運ぶエースの背中をゆいは不安そうにチラチラと見る。 その視線にエースが気付かないわけもなく、ニヤけた顔のエースは白い皿を持ち上げた。 「あれ…確かここにシュークリームを置いてた気がするんだけどなあ?」 クルリとゆいの方へ向きを変えるエース。 明ら様に目を逸らしているゆいに笑いそうになるが、少しだけ我慢。皿を片手に、ゆいの座るベットに腰掛ける。 「ゆい、知らねぇか?」 「Σえ…っ…あ、……う、ん。」 声がひっくり返るゆい。 目が泳いでいるが、焦りながらもエースの質問に頷く。 「さっき見たときはあったのになぁ…?」 エースもエースで、嘘に気付いてない振りでゆいへと詰め寄る。 詰め寄られているのと、嘘を隠そうとする焦りがゆいを追い込む。 む…と閉ざされたゆいの口だが、パッと浮かんだアイディアに言葉を発する。 「あ、ほら、あれだよ! 謎の空飛ぶ円盤がシュークリームを盗って行ったんだよ! わたし、見たもん。」 いきなり立ち上がったゆいの人差し指は閉じている窓を指した。 …知らないか、と聞いて頷いたのに、何が『わたし、見たもん』だよ。 矛盾を重ねるゆいにエースは心の中で突っ込むが、清々した顔を向けるゆいに何も言わない。 きっと嘘を上手に吐いたつもりなんだろうな。 相変わらず可愛らしい思考の我が彼女に「そうか。」と頷いてやるエース。 うんうん、と笑うゆいの手を掴み、引き寄せながら再び座らせる。 いきなり引かれた手に目を丸めるゆい。 そんなゆいにエースは語りはじめる。 「なあゆい、こんな話 知ってるか?」 「?」 「ある村にな、少年がいたんだ。 そいつは村人に『狼が来た!』って毎日のように嘘を吐いてた。 最初のうちは、村人は少年を信じて狼に備えてたんだ。 けど狼は現れなくて、少年が笑ってる姿を見た村人はもう少年を信用しなくなったんだ。」 「………っ」 「そんなある日だ、少年は本当に狼の群が村に下りて来ているのを見たんだ。 少年は村で叫んだんだ、『狼が来た!』ってな。」 この先の話が大体読めてしまったゆいは、悲しそうに眉を額に寄せる。 エースの唇を見つめながら、次の言葉を聞くのが怖いことを顔に出した。 そんなゆいの顎に手を当て、くいっと顔を上げさせる。 そして、エースは自分の顔を近づけ、ゆいの頬についているカスタードをペロッと舐めた。 「少年の言うことなんて誰も信じなかった。 またいつもの冗談だと耳を貸すものなんていなかったんだ。 …だからな、本当に狼がやってきたって知った時はもう遅かったんだよ。」 「…そんなっ」 どんな話でもすぐにのめり込んでしまって、感情的になってしまうゆい。 今回の話も効いたようで、今にも泣いてしまいそうな瞳のゆいがエースを見上げる。 そんな目をされるたびに、少しやり過ぎたか…と思ってしまうエース。 ← | → |