嘘を巧く並べただけ(1/3) 誰もいない部屋のドアがガチャッと開かれる。 ノックもなしに入ってきたのはこの部屋の主ではなく、小さな姿で。 キョロリと一通り目を通し、誰もいないことを確認する。 困った顔をする姿…ゆいは、部屋から立ち去ろうとするが。 「…わあ、なにこれ!」 テーブルに置いてある皿。 そこからは微かに甘い匂いが零れている。 興味を惹かれたゆいは部屋に入り、そのテーブルの前で佇む。 白い皿の上には1つだけ、少し大きめのシュークリームが乗っている。 小腹が空いていたゆいにとっては誘惑以外の何でもない。 手を出そうとしたが、やはり良心によりその手は止められる。 「…うぅ…、エース怒らないよね?」 小声で呟くと、止めた手は再び動き出す。 そもそもこんな所に無防備にシュークリームを置いておく方が悪い。 自分が入ってくることくらい容易に想像ができたはずだ。 そんな事を一人で思いながら、シュークリームを口に含んでしまった。 「…おいしっ」 罪悪感も感じなくなる程の満足感がゆいに出てくる。 幸せなオーラを放ちながら、ゆいはすぐ傍のベットに腰掛ける。 少し大きめにも関わらず、シュークリームはあっと言う間になくなってしまう。 最後の一口を頬張れば、物足りなさまで感じてくる。 そして今になってエースのことが頭に過ぎる。 エースの怒った顔が一瞬、頭を駆け抜ける。 頻繁に怒られるわけではないのに、すぐに浮かんでしまうその顔。 ことの大きさが徐々に膨れる。 その時、後からドアノブが捻られる音がした。 ゆいの心臓は跳ねるが、そんなのお構いなしにドアは開いていく。 バッと後を向いたゆいの瞳と、今ドアを開いて入ってきた瞳が合う。 「なんだ、ゆい こんな所にいたのか。」 「え、あ……うん。」 入ってきたエースとすぐに視線を逸らしてしまうゆい。 誰もが認めるほど嘘が吐けないゆいは、ただひたすらエースにシュークリームの乗っていた皿を見てほしくないと思い続ける。 そんなゆいの妙な態度を見て、エースの口元が軽く上がる。 …だがゆいにはそれは見えてはいなくて。 ← | → |