けれど幸せなインペイシェンス(3/3) 「それにね、わたし怪我して良かったってちょっと思ってるんだよ?」 「…なんでだよ?」 重く息苦しい空気の中で、ゆいは小さく微笑んで見せた。 それはいつもとは違うエースにとって、可笑しいくらい いつもと同じもので…。 傷なんて忘れるくらい、その微笑みに吸い込まれていきそうだ。 そしてゆいの唇は言葉を紡いだ。 「だって、本当は一緒にいられない時間なのに、こうしてエースと一緒にいられるんだよ?」 無傷なら、今頃はきっと自分はナースとしての仕事を手伝っていたに違いない。 それにエースだって、さっきのマルコみたいに甲板の後かたづけとか事態の報告とか…隊長としての仕事がいっぱいあるはずで。 まあエースに関しては本来も本当もないのだが。 それでも、やっぱり特別な時間に感じるのだ。 「馬鹿…お前って奴はっ」 エースの胸が急に目の前にくる。 傷ついた腕に負担をかけないように、そっと大きな腕でゆいを包み込んだ。 「エースとちょっとでも一緒にいられるんだったら、痛いのだって我慢できるの。」 「なら、痛いことも忘れちまうくらい、一緒にいてやるからな。」 その声色はいつもと同じで。 悲しそうに自分の腕を見る瞳はもうそこにはない。 「うん…そうして?」 エースの胸に耳をすり寄せるゆい。 そこからは 同じ刻みで聞こえてくるエースの鼓動があって。 これを聞くとすごく落ち着いた気がした。 いつもと違う不安定なエースに、いつもとの違いを隠そうとした自分がいて。 でも、もう関係ない。 「ねぇ、エース?」 「…ん?」 「まだ言ってなかったけどね、あの時 助けてくれてありがとう。」 腕を切られた時は、本当に死んでしまうと思った。 一瞬にして、まだ短いはずであろう自分の人生を諦めたりしてしまった。 でも、諦める前も、諦めた後もエースしか出てこなくて。 「腕は間に合ってないって思うかも知れないけどね、あの時エースはわたしの全部を助けてくれたんだよ?」 命だけじゃなくて、もっと繊細なところまで助けてくれた。 死んでも良いなんて、一生思えなくなるくらいの経験を味わったみたいだ。 「ああ…ゆいに出逢った頃から、全部を守るつもりだったからな。」 「なんか…格好いいこと言ったね?」 「今はあんまり格好つかねぇけどな。」 「それでも格好いいよ?」 おきまりの笑顔でニッと笑うエース。 その笑顔が向けられた時点で、わたしは傷の痛みの感じ方なんて忘れてしまったみたいだ。 end ← | → |