けれど幸せなインペイシェンス(1/3) いつもより忙しない様子のナース達。 医務室ではバタバタとドクターが右へ左へと走り回る。 そんな中で医務室の扉の開く音がするが、それすら聞こえない程に人の声や足音で賑わっていた。 だが声の中には痛みを噛み締める声であったり、悲鳴であったり…あまりいい雰囲気ではない。 医務室に入ってきた男はキョロッと辺りを見回し、一直線にあるカーテンの方向へと足を進めた。 壁をコンコンと2回叩けば、中からの返事も待たずにカーテンを開いた。 「エース、親父が呼んでるよい。」 「………。」 カーテンが開こうが、マルコが喋りかけようが、何をしようが無反応なエース。 顔を歪ませてエースを見たマルコに、ゆいは苦笑する。 「ごめんね、マルコ……、」 「いや、ゆいが謝ることはねぇよい。 ……んじゃな、俺はまだ後片付けが終わってないからよい。」 「うん、お疲れマルコ。」 「あぁ、ゆいも大事にな。」 「ありがとう。」 最後にチラッとエースを見たマルコは、ゆいに柔らかい笑みを見せてその場を立ち去った。 ゆいもそんなマルコに苦笑しながら片手を振った。 マルコの去った後の揺れるカーテンを見つめながら、ゆいはエースに言う。 「行ってきなよ、パパのところ。」 「…断る。」 「パパだってエースに用事があるから呼んでるんだよ?」 「俺にとって、これよりでけぇ用事なんてねェ。」 「用事って…何もしてないじゃん。」 「うるせぇ。」 白い腕にしっかり巻かれた包帯。 ゆいの目より、エースの視線はそちらの方にひたすら向いていた。 つい先程まで、モビーディック号の甲板は戦場となっていた。 敵襲が来ることは珍しくはなく、対応の仕方は個々でちゃんと解っていた。 だが今回は場が悪かった。 ちょうど甲板で洗濯物を乾していたゆいに、敵の船のクルーが切り掛かって来たのだ。 「敵襲!」と言う声のしている裏側でゆいは洗濯物を乾していて、全く気付かなかった。 避けきれなかった証拠が、ゆいの腕の包帯を赤く滲ませる。 ← | → |