あなたの胸に沈みたい(1/3) どうしてこんな格好でこんな場所にいるのだろうか。 それは至って単純な理由だったりする。 「なあ、ゆい…じゃなかった。お嬢さまァ?」 「………気持ち悪い。」 「しょうがねぇだろ? タダ飯なんだ、我慢しろ…じゃなくて、してください、お嬢さまァ。」 わざとらしい付け足しをしたエースの姿は、いつもの半裸姿なんかよりビシッときまっているスーツ姿。 眼鏡なんかしちゃって…手配書と見比べた人がいたとしても、すぐに気づく人はいないくらいの変身っぷりだ。 そんな慣れないエースを横目で見ては視線を逸らすゆい。 ゆいもエース同様、慣れない黒いセクシーなドレスを身に纏っているのだ。 一応、2人の中での設定は"貴族のお嬢さま"と、その"執事"なのだ。 ここはとある貴族主催のパーティー会場。 それに小腹を空かせたエースとゆいが紛れ込んだのだ。 最初はこんなカタチで食事をとろうとは思ってなかった。 ストライカーで出掛けていたエースとゆいだが、帰りが遅くなったためにモビーに帰る前にこの島で宿をとることにした。 宿はとれたのだが、レストランはどこも閉まっていて途方に暮れていた矢先にこれだ。 エースの嗅覚が見事に食事会…ではなく、貴族の誰かの誕生会らしいパーティーへと導いたのだ。 …食事にありつけたのはいいが、どうも落ち着かないゆい。 その様子を面白そうな目で見るエース。 「…もう宿に帰ろうよ?」 「今来たばっかじゃねぇかよ。」 「そうだけど……!」 さっきから自分に来る視線が嫌だ。 気付かれた…そんな視線ではなく、どこか自分の躯をジロジロと見られている感覚。 思わずエースのスーツの袖をキュッと握りしめる。 こんなに大きく胸元の開いた、しかも脚が見えるドレスを着ているのだ。 過剰なまでに視線に反応してしまうのも無理はない。 …何着か置いてあったドレスの中でこれを選んだのは失敗らしい。 一番エースが好きそうなドレスを選んだのに。 大量の料理をプレートに乗せて、自分の方を見て『行きましょうか、お嬢さま?』とか言うエースに恥ずかしく思う。 これを食べるのが、あたかも自分であるかのように振る舞っているのだ。 …こうでもしなければ執事であるエースが食事にありつけない。 そんなことは分かっていても、一人の女性として嫌だ。 やっと人気のないバルコニーへと出ていけば、視線から逃れられた気持ちでほっとなる。 そんな安心もつかの間。 ← | → |