さよならの理由(1/3) 今日も長い1日が終わり、冷たいベッドに沈む。 小さく灯された明かりを消し、自分の肩まで布団を被せる。 2週間前にエースは親父さんに言われた用事で船を出て行った。 べつに、こういう状況が初めてだったわけでもないし、エースだって孰れは帰ってくることを知っている。 信じている。 でも冷たいベッドでは、いつもの安心感はなくて。 抱きしめられている温かさがなくて。 優しいトーンで『おやすみ』と言ってくれる声はなくて。 中々寝付きにくいのが現状。 エースは今、どこにいるのかな? エースはこの2週間で、どんなものを見て、どんなことをして、どんな顔をして笑っているのか… 早く会いたい。 早く戻ってきて欲しい。 別にエースを縛りたい訳じゃないし、エースの事を信じていないわけでもない。 ただエースがいない間は、何故か世界が広く思えてしまって。 一生は凄く短い。 そんな中で、エースに出逢うまでに18年も損をしている。 これからの事なんて分からないし、もしかしたら明日どちらかが死んでしまうかもしれない。 言葉では簡単に来世も一緒だなんて言えるけど、例え来世が一緒だとしても、親父さんがいて、マルコがいて、サッチがいて…こんなに楽しい白ひげ海賊団なんて存在しないだろう。 そう思えば、エースとの時間が凄く重く感じる。 そんなことを言えば、どうせ笑われるのがオチだが。 こちらとしては、凄く真剣だったりする。 考えれば考える程、自分は何がしたいのか…迷子になる。 悩んで悩んで…気付いたら寝ている2週間だ。 今日もきっとそうやって… ふと時計を見れば、夜中の2時。 今日は本当に眠れない日だ。 全然目が冴えてる。 目を瞑れば、ちゃんと眠れるはず… 固く目を閉じれば、部屋の扉が静かに開いた。 ゆいはドキッとして目を開けば、ベッドの端が沈むのが分かった。 「…起こしちまったか?」 こちらに身を寄せ、申し訳なさそうな顔をする。 起きたとか、そんな事関係なくて。 ただこの一時だけに、胸がいっぱいになる。 ゆいは身を起こし、数時間前に消した明かりを再び付けた。 「眠れなかったの。 …おかえり、エース。」 「そうか。ただいま。」 ニッと笑って、いつものように抱きしめるエース。 2週間ぶりにエースの温かさを感じた。 悪魔の実とやらの能力のせいか、エースはきっと普通の人より体温が高い。 眠れなかった冷たい身体に、熱が伝わる。 ← | → |