エープリルエース(2/4) サッチの動く唇を、ゆいは見つめる。 「今日はな…実は世界が終わる日なんだ。」 「!」 ゆいは目を丸めて、持っていたスプーンを皿に落とす。 サッチの言葉に頭が付いていけないゆいは、ただ呆然とサッチを見る。 「今日は何億年かに一度の、世界がリセットされる日なんだ。」 「う、嘘…っ」 「本当だぜ? だから俺らは今日でみんな終わりだ。」 俺らは今日でみんな終わりだ。 ゆいはその言葉に青ざめる。 それは、みんな死んでしまうと言う事なのか? みんな死んで、リセットされると言う事なのか? 嫌だ…っ そんなの嫌! 「なんでみんな…いつもみたいに平気な顔してるの?」 「みんなだって知ってるんだ。 だけどな、別れが寂しくなっちまうだろ?だから今日はいつもみたいに普通のみんな、演じてるんだ。」 「………!」 周りのみんなが頷く。 ゆいは一人、動揺した顔を隠せないでいた。 こんな事をしている暇はない! もう残り17時間も存在しない。 エースに会わないと… エースと一緒に居たいよ。 まだずっとエースと一緒にいたかったのに。 ゆいは立ち上がり、言った。 「エースのところに行ってくる!」 ゆいは慌ててエースを探すために食堂を出て行った。 ゆいが出て行ったのを確認したサッチとその周りの集団は、一斉に笑いはじめる。 「はははっ あいつ、ホントに今日が何の日か知らねぇらしいな。」 「可愛いっすね、ゆいちゃん!」 「あんなに上手に騙されてくれたら、騙し効を感じるよな。」 「あー、エース隊長が羨ましいぜ!」 食堂は一気に盛り上がったことを、酷く焦っているゆいは知らない。 廊下を走りながら甲板に行く途中に、ナースの先輩を見かけた。 いつもみたいに普通な表情だ。 ゆいは今さっきの事を知らないのかもしれない…っとナースの先輩を呼び止めた。 ゆいの酷く焦る表情を見て、ナースは何があったのかを一瞬で見破った。 「先輩、今日のこと…知ってますか?」 「今日のこと…?」 「世界が終わる日なんですよっ」 「そうね、確かに今日は世界が終わる日だわ。」 先輩までもが知っていた! ゆいはますます嘘だとは思えなくなる。 ただナースの先輩はゆいの話に合わせただけなのに、それにすら気付かないゆい。 かなり動揺している事が、ナースにも解った。 「ほら、今日なんて短いんだから、エース隊長の所へ行ってあげなさいよ。」 「は!そうだった!」 ゆいは先輩の手を掴むと、今までありがとうごさいました!と礼をして、その場から走り去った。 ゆいが走り去れば、ナースは笑った。 もちろん、ゆいはそんな事は知らない。 ← | → |