――…あ、教科書忘れた。


同じクラスの天馬君たちとサッカー棟へ向かっている途中、私はそんなことを呟いて足を止めた。

突然足を止めた私を見て、天馬君たちはなんだなんだというような顔をしていたが、私の吐いた台詞を聞くなり何なり「あーあ、狩屋やっちゃったねー!」

なんて言って私を笑う。

そして、そんな彼らに私は素っ気なく『…〜ッ、うっせ!』と顔を真っ赤にして返すのだ。


…そう。私の名前は狩屋真沙希。あの狩屋だ。私は13年前、女としてこの狩屋マサキに成り代わってしまったのだ。

始めはマサキの姉弟だろうと思い込もうとしていたのだが、まぁ、名前が真沙希だったし…ね。無駄でした、はい。

しかし、世界が私を女として生まれたことを否定するかのように、親には生まれたときから男として育てられた。なんか、家の事情とかなんとかでらしいが

、…そんな細かい事情なんかいちいち憶えていない。

だから、今の私は〈狩屋マサキ〉。俺として、狩屋マサキとしての人生をエンジョイしている。これといって特に支障はないからあまり自分では気にしてい

ない。



――…場所は変わって、俺は一人で教室へ向かうため先ほどまで天馬君たちと歩いていた廊下を戻っている。時間も時間なので、校内に生徒のいる気配はな

い。夕日に照らされながら、静かな廊下を校庭から聞こえてくる部活生の声をBGMに歩いて教室へ向かった。





ガラッ

『…』

やっと教室に着き、さっさと教科書持って部活に行こうと扉を開けると、中には先客がいた。…しかも、2年のよく見知った顔だ。

「よう!遅かったな!」
『……なんで先輩がいるんですか。ここ1年の教室ですよ?あと、そこ俺の席なんですけど!』

輝かしい笑顔で俺に手を振ってくるのは、部活の先輩で同じDFの霧野先輩。月山国光との試合のときに先輩をはめようとした俺をいきなり「信じる」とか

言い出した変な先輩だ。あれからというもの、俺が何かやらかすたんびになんだかんだと絡んでくるようになった。

「来ると思ってたよ。教科書忘れたんだろ?あの先生宿題忘れると怖いからなぁ!」
『何すかその全てを知っています感!…てか俺の質問はスルーかよ!?この女顔!!!』
「女はお前だろうが」


悪態をついた俺の霧野先輩の返答に俺は驚き、動きを止めて目を見開いた。…こいつ、今なんて言った?




『…せ、先輩今なんて……』
「女はお前だろう?狩屋」

にっこりと俺を見て口元を釣り上げる先輩。サァァ……っと血の気が引くのが自分でもわかるくらい俺の顔が真っ青になっていく。

『な、…なんで』
「見ればわかるって。まぁ安心しろよ、他の奴は全然気付いてないみたいだからな」


なんだぁ、それなら安心……なんてできるわけねぇだろ!!!なんて先輩に言えば、あはははと笑われた。…いや、笑いどころじゃぇよ!てか笑えねぇよ
!!あまりにも唐突すぎて、俺は混乱して若干パニックを起こしているようだ。そんなことを考えていたら先輩に「お前、何一人で百面相してるんだよ」と

言われた。…いや、誰のせいだと思ってんだこいつ。

「心配すんなよー。誰にもばらす気はないから」
『……』
「…そのかわり」

じりじりと近づいてくる先輩に俺は一歩、また一歩と後ずさっていくと、トンッと教室の壁に背中がぶつかったと同時に顔の横に手をつかれる。





「俺のいうこと、…なんでも聞けよ?」


そういって先輩はまた笑った。あ、何だろ、これ。霧野先輩の背後に桃色の天使じゃなくてなんか鬼神的なものが見える気がする。













――俺の秘密、最悪な人物にばれました。



End.





―――――――――――――――――――――――――――***

初、短編。
文まとめるのほんと下手くそで分かりづらくてごめんなさい(汗)

成り代わりあまり抵抗なくて大好きです!



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