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調達/8



私の朝食は昨日訪れた川から調達することにした。川がとても良く澄んでいるから水中の様子がよく見える。魚を捕まえられるかはわからないけれど、運が良けれなサワガニのようなものがいるかもしれない。

「おっ、カニ発見」

 案の定、川面近くの石をひっくり返して見れば小さなカニが出てきた。逃げるそれにすかさず手を伸ばして捕まえる。こうしていると小学生の時の夏休みを思い出す。今みたいに、よく沢でサワガニを捕まえたっけ。スルメを餌にしてザリガニ釣りをしたり、山の中を駆けずり回ったり、桑の実をおやつ代わりにして歯を紫色に染めて帰ってきたり・・・。思い返すと、結構野生児だった幼少期。まあ田舎の子供は大抵こんなものだろうが、その時の経験が今になって活かされるとは思わなかった。     
 肩紐を引きちぎったキャミソールを活用し端の口を結んで袋代わりにする。その中に捕まえたカニを入れておく。しばらく石をひっくり返すのを繰えせば、十匹程度の蟹を捕まえることができた。加えてカジカの様な小魚が4匹。大きな魚は素早すぎて素手では難しいと判断し、一旦巨木へと帰ることにした。

「帰るよ」

 呼びかけたのはあのシマエナガに似た鳥だ。カニ捕りでは邪魔になるので川面に置いてきた。どうやらこの子はこの子で食料調達をしていたらしく、ツンツンと小さな嘴で地面をつついていた顔を上げてこちらへと飛んでくる。

「お利口だねえ」

 何の理由があって私にくっついているのかはわからないが悪い気は全然しない。頭に乗った毛玉が落ちないように、慎重に歩きながら川を後にした。


 巨木へと帰ると、焚き火の火が随分と小さくなってしまっていた。慌てて枝を拾い集めて追加する。復活した火の中にそのままカニを豪快に投下。本当は一晩泥抜きした後に油で揚げて食べたいのだが、あいにく油なんてものは持ち合わせていない。飯盒も当然ないので素焼きしか方法がないのだ。小魚は口から枝を通して焚き火を囲む様にぐるりと並べていく。
 しばらくすると、魚介類特有の良い香りが鼻を刺激した。今がちょうど食べごろなのだろうが、寄生虫が心配なので少々焼きすぎかなと思うくらいには十分に焼いておいた方が安心だろう。先ほどからお腹は鳴りっ放しだったが、後が怖いのでここはぐっと我慢する。

「頂きます」

 それから数分焼き続け、小枝を箸、帰り道に採ってきた大きな葉っぱを皿代わりにして初めに焼きたてのカニを頂く。

「あっつ・・・」

 唇に触れる熱に顔をしかめながらも次々とカニを口に運んでいく。じゃりじゃりと口の中では砂の感触がするし、直火でしっかり焼いたから焦げ臭さが鼻から抜ける。小魚もナイフがないから腸はそのままだ。念には念をと肝を食べることはしなかったが少々泥臭い。だけれど不思議とこれを「美味しい」と思ってしまうのは空腹故なのだろう。体が小さくなったからなのか、足りないかもしれないと思っていたけれど満腹になった。これでまたしばらくは活動できる。

「ご馳走様でした」

 カロリーを摂取したからか、暑いくらいに火照った己のを両手で覆う。じんわりとその熱が手のひらに移っていくのを感じた。川で濡れた足先も徐々に体のうちから温まっていく。焦燥感に包まれていた心が、今は満足感に満たされていた。どくん、どくんと脈打つ心臓の音を聴きながら、手に移る熱を感じながら、自分が今確かに生きていることを再確認する。

『頂きます、とはいい言葉だね。命に感謝するいい言葉だ・・・』

 ふと、老人の言葉が思い出された。ただ習慣として体に染み込んでいるだけで、普段意味も深く考えずに口に出すだけの言葉。あの時は話を合わせるために適当なことを言ったけれど、今だったらその言葉の本当の意味が理解できる。命を奪い、命を繋ぐ。熱を生み、活力を生み、続いていく。

「・・・・ご馳走様でした」

 もう一度両手を合わせ、深く頭を下げて私は呟く。今更になって、私は本当の意味でのこの言葉を紡げた気がした。




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