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「あれはあやつの意思とは関係なしに穢れた闇が入り込もうとしているのじゃよ」
椎とラナの間に
いつの間にか水鶏が立っていた
「どわっ!水鶏様いつのまに?!」
「うわっ、水鶏…今日も小さいね。」
2人の驚きポイントは絶妙に違う
水鶏はそんな2人を見ていつものように笑っていた。
「ほっほっほ、ラナよ…小さいは余計じゃ!!」
「本当のことだろ、と言うかさっきの話の続きをしてくれないかい?」
「何じゃい、小さくないわっ!まぁ良い、馬酔木は穢れた闇によって病んでいる。そのせいで闇の制御が出来ずに際限なく闇が取り込まれつつあるのじゃ」
その体の許容量を超えて闇が体の内に入ってしまえば
いずれ肉体も精神も闇に乗っ取られてしまう
そしてその全てが闇となってしまうのだ
馬酔木は虚ろな瞳のまま
小さく小さく拒絶していたのだ
「…もぅ…も…ぃや…も…ぅ…ぁっ…ぁあ…」
「成程ね、こちらに攻撃出来る程の余裕すらなくなるほどに闇が暴走しているということだね?」
「まぁ、そういうことじゃ…相変わらず難儀な奴じゃ。全く…と言うわけで、ラナ?」
水鶏がラナの名を呼ぶ
ラナは水鶏の意図を汲み取ったらしくニヤリと笑う。
「いいよ、穢れた闇なんて浄化してしまおう!聖騎士の名にかけて!!」
ラナンキュラスは鞘からスラリと剣を取り出した。
眩い光が辺りを包み込み
うす汚い闇を塗り潰す
「おー!流石聖騎士!闇払いなのに聖なる光って凄いよね〜」
「まぁ、確かに奴は闇払いの中では珍しい能力じゃな」
普通は闇を更に強く深い闇で排除してしまう文字通り“闇払い”なのだが、ラナンキュラスの場合は闇を光の様な美しい闇で浄化してしまうのだ。
「奴の闇は夜明け前の暁のようなものなのじゃろうな」
「悪しき闇よ、去れ!」
ラナが美しく剣の舞を披露する
その度に馬酔木の周りの闇が消えていく。
「ぁ…ぁあ…ゃ…だ…ゃめ…て…」
馬酔木は小さな子供の様にうずくまり、イヤイヤをするように首を振っている
馬酔木の体から穢れた闇が消えていく
が、しかし
不意に水鶏が苦い顔になる
「…拙いのじゃ…」
「水鶏様、どうかしたの?」
椎は水鶏様の異変に気付いたのか首を傾げる
「ラナンキュラスよ!一旦止めよ!」
水鶏はラナの目の前に
飛び出しながら叫んだ
その瞬間だった
「アァァァアァァァ!!!」
馬酔木が拒絶の絶叫と共に
水鶏に無数の闇を突き刺した
「水鶏…何故…」
ラナンキュラスは闇が貫通した水鶏の体に呆然としながらも治療を施そうと闇を操る
水鶏は苦しそうにもがく馬酔木を見ながらラナに答える。
「馬酔木の心がな…酷く弱まっているのじゃ。このままでは奴の心は壊れる。それではあまりに不憫じゃろうて…」
水鶏は馬酔木から受けた傷をラナの手助けを得ながら自己修復しつつふと気付いた。
馬酔木の闇が自分に助けを求めているような感覚
馬酔木は水鶏に助けを求めている
そう、紛れもなく水鶏に
「そうか…お主…」
いつのまにか、馬酔木にとって床闇館はれっきとした居場所になっていたのだ。
水鶏に助けを求めるということは、水鶏を認識していて初めて成り立つこと
祐に信頼を寄せていることは分かっていたが…
「あい分かった!大人しくしておれよ!!」