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ふと、霊慈は前の方がざわついていることに気が付いた。
顔を上げてみると、真っ黒な服を着た青年が自分のプリントや教科書を拾い集めていた。
しかも、見覚えのないその顔はやたらと整っていてざわついている声の半分以上が女子達の声だと分かった。
「あ、あの…」
つい、拾ってくれている青年に声をかけていた。
声に気付いた彼はこちらに視線を向けると、
「…これで終わりだと思うが…」
彼はそう言って、集めたプリント達を僕にくれた。
まさかこんなことが起こるとは思っていなかったため、僕は嬉しくなってしまっていつもより大きな声でお礼を言った。
「あ、ありがとうございました!」
「別に…普通だろう?」
「え?あ、あはは、そうですか?す、すみません…」
さらりと言われた言葉が嬉しくて久しぶりに幸せな気持ちになった。
“胡散臭い格好の者だが、良い奴みたいだな?”
時雨が自分に向かって耳打ちしてくるので、失礼だろっと小声でたしなめた。
その瞬間、思いもよらず声がした。
「…お前も十分胡散臭い格好だろ…」
「へ?」
僕は驚いて情けない声を出していたが、彼はそんな僕にはお構い無しに時雨の方を見ていた。
“こいつ…見えている?”
「…え?まさか…」
僕らは二人して顔を合わせて彼の返答を待ったが、即答だった。
「まさかではなく見えている。」
その答えを聞いた霊慈と時雨は驚きの余りフリーズしてしまった。