11
「あっ!!」
青年の叫び声が広い大学の中で響いた。
その青年に皆注目したが、それは一瞬のことで青年の近くにいた人間は皆また彼に気にせず歩き始めた。
彼は小さな声で「すいません」と言いながら、散乱したノートやプリントを拾い始めた。
「あ〜あ〜、派手にやられたなぁ…」
彼は小さな声で一人言を呟きながらノート等を拾い集めて行った。
周りの人間は彼の一人言なんて気にしない。
それが実際は一人言じゃなかったとしても…
“全く…近頃の人間どもは!霊慈、いい加減あんな奴ら斬らせろ!”
そう、彼の横で激昂している者がいることは、霊慈と呼ばれた青年にしか分からないのであった。
「こら時雨、物騒だよ?」
霊慈は苦笑いしながらプリント等を拾っているが、これも実は霊のいたずらである。
怒った時雨がその霊を掴んでいるのが霊慈には見えていた。
その霊はと言うと、こんなつもりじゃなかったんだよ、嫌いになった?と、霊慈に向かって小さな声で謝ろうとしている。
霊慈はそんないたずらっ子を可愛らしいなぁと思い、微笑んだ。
いや、微笑んでしまった。
「あいつ一人で笑ってるよ…」
「うわぁ…ちょっとね…」
周りの反応にハッとした霊慈はうつ向いてまたプリントを拾い始めた。
ずっと一人だった霊慈は、人のそういう反応が苦手であった。
―どうせなら…見なきゃいいのになぁ…
そう思ってしまうくらいだった。
“霊慈…あんな奴ら気にしないことだ”
「…うん…」
時雨が霊慈の肩にポンッと手を置き励ますように微笑んでいた。
そう、彼らには見えていないのだから仕方ないのに…
あんな風に思ってしまった自分に後悔しながら、彼はまたプリントやらが散らばってしまった道に目を向けた。