李はそんな馬酔木と自分の部下達に苦笑いしながら水鶏に話をふる。


「あぁ、それと水鶏様、馬酔木ちゃんについてなんだけど…」

「あぁ、どうなったのじゃ?」


実は、馬酔木はこの国で有名な大量通り魔殺人事件の殺人犯として指名手配されていたのだ。
それは、闇の暴走があったことと基本的には闇者殺しであったが、それはそれ。


「一応、もう事件を起こす可能性がないとされたから指名手配を解除するそうなんだけど…マスコミとか遺族がね〜」

そう言って李は困った顔をしている。


「やはりな…では、此方ではあまり目立たないようにした方がいいんじゃろうな」

水鶏も少し厄介そうな顔をしている。


これは最近分かった事だが、この世界の、特にこの国の闇は通常よりも酷く淀み穢れている、この闇は闇憑きである馬酔木には毒なのだ。
無差別に殺人を行うという凶行に出るまでの闇の暴走となったのは、この穢れた闇が馬酔木の精神と身体を酷く蝕んだからなのであった。

この為、なるべく穢れている闇の薄い昼間に仕事を出来るようにしたかったのだ。


「…夜は嫌…だ…」

馬酔木がポツリと呟いた。

この間の闇祓いはこの実験も兼ねて夜に行った。
馬酔木への穢れた闇による身体や精神への影響が酷い痛みとして現れたので、馬酔木も夜に能力を使いたくないらしい。


今後の対処に水鶏達が頭を悩ませている時だった。


「仕方ないじゃないですか、これは…彼の自業自得なんですから!!」

加藤が馬酔木を睨みながらそう言い放った。

「加藤!止しなさい!」

李が制止するが、それを無視して加藤は馬酔木に詰め寄る。


「どうしてそんなに殺したんだ!殺さなくたって、殺さなくたって闇は祓えたんだろ?おい!何とか言えよお前!」


加藤は、人を殺した癖に平然としている馬酔木が許せなかったのだ。

襟元を掴み、馬酔木に食って掛かる加藤を阿相が羽交い締めにして制止した。


「おいおい、落ち着けよ加藤〜」


あんたはは落ち着き過ぎなのよ、阿相!
(by李)


「馬酔木、大丈夫かい?」

傍に控えていた白樫が馬酔木に声をかける。

「…げほっごほっ…ぐっ…うぅ…」

咳き込む馬酔木の背中を擦る白樫と馬酔木の目の前で手をヒラヒラさせる椎


―ガッ

苛立つ馬酔木に蹴りを入れられ転がる椎


「痛いよー(泣)」

「当たり前だよ、お馬鹿」

白樫は予想が付いていたので痛くありませんでした。


羽交い締めにされていた加藤を李が小突く。

「もう、身体の弱ってる子に手荒なことしちゃ駄目でしょ?」

「でも…あいつ…反省してるように見えなくて…つい…」

加藤は馬酔木を見ながら小さく呟く。
すると、そんな加藤の前に水鶏が立った。

「すまんな、加藤…儂らがもちっと早く見つけていれば良かったのじゃが」

「い、いや、そんな……俺こそこんな…すみませんでした!」


加藤は馬酔木に人を殺したことに対して反省して欲しかっただけなので、水鶏様に謝られてしまうと困ってしまった。



「むっ?」


水鶏は異様な空気を感じ、加藤達の前に立つ。


“ほら…殺さないと…”

“お前なんて…嫌われ者なんだから…”

“傷つけられるぞ…お前は汚いから…”


―ドクンッ


「…ゃ……だ…」


「…馬酔木?」

白樫もそれを感じたようで、馬酔木に声をかけるが此方の声は聞こえていないようで返事がない。



「…邪魔なものは…殺す…」


馬酔木はそれだけ言うと立ち上がり、水鶏の前に立った。


「馬酔木…いかんのじゃ…」



「…嫌…聞かない…だって…だっ…危ないのは嫌…怖いのも…苦しいのも痛いのも悲しいのも怖いものは皆…皆、皆、皆嫌ァァァァァア!!!」



―ガタンッ


馬酔木は絶叫したと同時にその場に倒れた。


「ふう…やれやれ間一髪!」

馬酔木の頭上には菱形の集まったようなものがふわふわ舞っていた。

それは椎によって創られた闇であった。

これにより馬酔木の闇は抑えられ、更に水鶏が拡散させたのだった。



「一体、何が…?」

目の前で起きたことが今一つ理解出来ない加藤に対して、白樫が答えた。


「多分、加藤君の憤りが、馬酔木の何かに触れたのだろうと思う。」


白樫が馬酔木を抱き上げると、馬酔木は涙を流しながら小さくうずくまった。

「っ…うっ…ふっ…」



「相変わらず面倒な奴じゃよ全く!」

「大変だよねー」

椎と水鶏様は二人で手を取り合った。

勿論、二人して白樫にすこぶる睨まれたのであった。


二人の頭にはまたおたんこぶが増えそうである(笑)




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -