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「…ふん…」
馬酔木は凛華を連れていく白樫を見下ろしながら、水鶏に訊ねる。
「なぁ…あの女は…どうなる?」
「何じゃ、気になるのか?」
水鶏はニマッと笑いながら馬酔木の顔を覗き込む。
「一応」
馬酔木は水鶏に蹴りを入れながらソッポを向く。
水鶏様は蹴られたところをさすりながら文句を言う。
「ぬぅ、虐待じゃ!カルシウム足らんじゃろ!ぶつぶつ…まぁ、あの女は闇祓いではなかったから床闇館には連れて行かん。だから警察に渡す。」
そこまでが仕事じゃ!と馬酔木を叩く。
「警察…警察で平気なのか?」
馬酔木は若干イラッとしながらも水鶏に訊ねる。
「警察にも此方の事情を知る科があるのじゃ、近々お前も顔合わせして貰うぞえ〜」
顔合わせと聞いたとたんに「ゲッ」と面倒臭そうな馬酔木を無視して水鶏様は続ける。
「ここはお前の世界じゃろう?しっかり働くのじゃぞ!」
水鶏様はホッホッホッと笑いながらそのまま闇に消えて行ってしまった。
「…俺の世界…」
馬酔木は闇を見つめながら考える。
自分の存在定義だとか役割だとか
ボーッとしていたら椎に叩かれた。
「馬酔木、兄さん戻って来るみたいだからそろそろ帰るよ!!」
「あぁ…」
帰る場所がある
それだけでも、今の自分には
充分過ぎる幸せなんだろうな
そう、今の自分には…
ふと、馬酔木は考えた。
そして、わりと重大なことに気付いた。
「あ…」
「どしたん、馬酔木?」
「忘れ物かい?」
二人が馬酔木を覗き込む中
馬酔木が口にした言葉は…
「…俺、昔の記憶…ないっぽい…」
『ええぇぇぇぇぇぇええ?!!!』
街に二人の声が木霊した。
to be continue…