「…深淵はここまで」


馬酔木の口から言葉がつむがれた。


それは馬酔木の声では無かったのだろう。



「闇に目覚めたのはそれがきっかけだったんだね…」

椎と白樫は悲しそうな顔をする。


一人の人間が闇に堕ちるのなんて、

とても難しいようで、

こんなに簡単なことなのだから


「そこからは、今の奴を見れば分かる…虫酸の走る…」

馬酔木は虫けらでも見るような目付きで、
きらびやかな店の中で作り笑いを浮かべる女達を見下していた。


「そうか…彼女は今も深い闇の中で、わざわざ自らを…」

「…うん、何だか可哀想な人だね」


椎と白樫は辛そうに目を伏せる。

馬酔木はそんな二人の前に出る。


「哀れな女だな、仕返しのつもりなんだろうか…」


「馬酔木?」


椎は馬酔木が何をしようとしているのかが分からず、とまどいながらも声をかけた。


馬酔木に、先程までとは違った侮蔑と残虐な表情が浮かぶ。



「目障りだ、さっさと祓おう…不愉快だ」


馬酔木がそう口にした瞬間、闇がざわめき出した。

通常では有り得ないような闇のざわめき


これにはようやく凛華も気付いたようだ。

彼女の闇がねっとりと動き出す。


「ちょっと…お店抜けるわ」

凛華は、誰も求めていない伝言を残し
店を出て、嫌な気配のする方に向かう。


「私を傷つけるものは…皆皆、思い知らせてやるんだ。私を愛さなかった罰を…罰を…」

凛華はブツブツと呟きながら自分に害のなす闇…馬酔木達の元へと歩き出した。










「…ここね、ここに私を馬鹿にする奴が…」

凛華は暗い路地裏にたどり着いた。



そこには、無音の静寂と

混沌とした闇が広がっていた

凛華は辺りを見回すが、人がいないことに苛立っていった。


凛華は気付かなかった。


自分が誘き寄せられたことに…


闇の蔓延る深淵に闇の領域に

堕ちたということに




「何だか寒いような…」


凛華は悪寒を感じ、身を震わせた。

先程から感じている闇のざわめきが不安を煽る。



―ざわ―


「早く…出て来なさいよ…」


凛華は苛立ちを隠そうともせずに大声で叫ぶ。


「その闇のざわめきが…煩くてムカつくのよ!」


姿を見せろだとか鬱陶しいだとか騒ぎ立てる凛華の背後に闇が集まり始めた。


「馬鹿は馬鹿と言うことか?」

突然背後から男の声がして凛華は振り返る。
しかし、その時には自分の体が壁に叩きつけられていた。


「きゃあっ!!」

凛華は突如現れた何者かに壁に叩き付けられ、首を絞められた。



「あっ…く…かはっ…」


凛華が最後に認識出来たのは…

侮蔑の表情で自分を見ている男の顔だった。









「あっけない…」


馬酔木は意識を失った凛華の首から手を離す。
凛華はそのまま地面に落ち、咳込んだ。


もし、これが昔の馬酔木だったならば

凛華はこの世に居なかっただろう…


何故ならここは、殺人を行っていた頃の

馬酔木の闇領域なのだから



「馬酔木怖ーい☆」

そんな中、場の空気を読めない椎が
凛華を地面にきちんと寝かせてあげながら
馬酔木に向かって奇声を上げる。


無論馬酔木はノーリアクション


「ところで…闇の祓い方…は?」


椎をスルーしつつ水鶏に話しかける。


「ふむ、お前の場合はのぅ…自分の闇を使って闇を絡み取る感じじゃな〜ホレッ!」

水鶏は闇を巧みに操り、椎の闇を引っ張って椎を転ばせる。


「イタッ!水鶏様何すんだよ!!」

すると、椎も負けじと水鶏の頭上に闇を丸く固めて落とす。


「ぬっ!椎の癖に生意気なのじゃ!!」

「水鶏様のバーカバーカ!!」


闇祓いのレッスンから一転して馬鹿騒ぎになる水鶏様と椎をシカトして、馬酔木に白樫が説明をする。

遊んでいる二人の運命(お仕置き)は
この時決まったのだった。




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