追いかけっこ

(執筆:瀬世羽様)

先刻から、セロネは暇を持て余し城内を散策していた。
「つまらぬ。退屈だ」
階段を登り、廊下を歩いては、違う階段を降り。
気まぐれにセロネは歩いていく。
彼女の両肩ではロネとネロが、主の為に何か面白いものは無いかと辺りを見回している。
しばらくそうやって歩いていると、廊下の向こうから白い物体が近付いて来るのが見えた。
「何だ、あれは?」
白い物体は左右に揺れ、跳ねながらやって来る。
セロネが立ち止まると白い物体も彼女に気付き、ぴたりと止まった。
それは、魔獣だった。
子供なのか人の頭ほどの大きさしかない。
雪玉のように真っ白で引きずるほどの長い耳を持ち、二本の足で器用に立っている。
セロネと魔獣は見つめあった。
無表情なセロネに対し、魔獣は彼女の威圧感に冷や汗を流している。
しばし、そのまま互いに止まっていたが魔獣が急に横へ動いた。
するとセロネも前を塞ぐように横へと動く。
再び見つめ合う。
横へ動く度にセロネがその前を塞ぐ。
魔獣は、滝のように汗を流し固まった。
しかし、後ろに下がれば良いことに気が付くと、踵を返し一目散に逃げていったのだった。


その後、めごとひきと共に魔獣を捜索しているのだが、なかなか見つからない。
「芭甄にも手伝わせよう。確か掃除をしていたな」
廊下を進み階段を降りていくと、芭甄の姿があった。
彼はセロネに気が付くと、箒を持った手を止めて踊り場にいる彼女を見上げた。
「セロネ様。騒がしいですが何かあったんですか」
「追いかけっこだ」
「はい?」
首をかしげる芭甄に、セロネは何か思い付いたらしく手を打って頷いた。
「そうだ、お前は確か独り身だったな」
その言葉に、芭甄は思わず箒を落とす。
「ま、まぁ、独り暮らしではありますが」
「うむ」
セロネは頷くと、先ほど自分が降りてきた階段を見上げた。
「セロネ様っ。そちらに行きましたわ!」
その方向から、めごの叫び声が聞こえる。
魔獣は、二人の恐ろしい魔女の片腕に追いかけられ、必死に逃げてくる。
セロネは駆けてきた魔獣を瞬時に掴むと、それを勢い良く芭甄に向かって投げた。
彼は見事にそれを受け止める。
「お前にやろう」
「ええっ?」
魔獣は放心状態だ。
「良かったね」
ひきが、それを見てにやりと笑う。
「さて。お茶にいたしましょうか」
「賛成っ」
狼狽える芭甄と魔獣を残し、三人は立ち去っていった。

―end―




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テーマ「人外ファンタジー」
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