魔界の異形売り

(執筆:瀬世羽様)

「さぁ、寄った寄った!」
魔界の市場は今日も賑やかだ。
様々な種族の者たちで溢れ、様々な品が取引されている。
その一角で、突如として大きな声が響いた。
「本日の商品は、次元と次元の狭間から生まれた不思議生物だ」
声を聞き付けて、何処からともなく人が集まって来る。
彼らが取り囲んでいるのは、一風変わった物を売る異形売りだ。
不思議な物や面白い物が見れると、市場ではちょっとした人気がある。
手足が長く痩せこけた異形売りの男は、集まってきた客を見渡して喋りはじめた。
「これがその不思議生物。可愛いだろう」
男が台の上に置いたのは、耳の長い手縫いの人形に似た生物だった。
口は縫い付けられたかのように塞がれており、眼も左右不揃いな形をしているが、何とも愛嬌がある。
生物は大勢に囲まれたため、きょろきょろと辺りを見回した。
「だが可愛いだけじゃあないんだ。まずはその肌触り」
男が、生物の背中を勢い良く撫でる。
「ふわりとしていて抱き心地は極上!うたた寝やごろ寝、昼寝のお供に最適だ」
生物は前のめりなったが、直ぐに体を起こした。
それによって、体に不釣り合いなほど長い耳が振り子のように前後に揺れる。
「次に体の伸び縮み!普段はこの大きさだけれどあら不思議」
男は両側から生物の頬を引っ張る。
すると、生物の顔は耳と変わらない長さにまで伸びた。
客から驚きの声が上がる。
「縦横斜めに自由自在、伸縮自在だ」
生物は、どれだけ伸ばされても痛くはないようで、平気な顔をしている。
大人しくしている生物に、男がご褒美だと大きな棒付き飴を渡した。
「さあさあ、ついに最後だ!何とこの中身は、無限に広がる異空間なんだ」
客たちの視線が生物に集中する。
首をかしげる客たちに、男はにやりと笑た。
「何、信じられないって?証拠を見せてやりたいのは山々なんだが、あんたたちが中に入って実践してくれるかい?」
客が一斉に笑う。
「この生物に、今なら食事用の道具を付けよう。もう一つおまけで赤いスカーフもだ」
男は、生物におたまとフォークを持たせると、赤いスカーフを首にまいてやった。
生物はそんなことを気にもせず、飴を舐めるのに夢中だ。
「さぁて。いよいよ気になる値段だが」
「買う、です!」
突然、きれの良い挙手と共に声を上げた者がいた。
しゃがみこんで、先ほどからじっと生物を見つめていた少女だ。
「いや、まだ値段を言ってないんだが」
狼狽える男に、少女は挙げている手を強調した。
「買う、です」
男は客を見渡した。
他に申し出そうな者は居なさそうだ。
「よし!嬢ちゃんの潔い決断にどうか拍手を」
客たちは、微笑ましい少女に拍手を送ってやった。
少女は嬉しそうに頷くと男の言う金額を手渡して、既に棒だけになったものを口にくわえている生物を抱き上げた。
大輪の花のように満面の笑みを浮かべた少女に、生物は見とれて思わず口から棒を落とた。
「はじめまして。ぴりあ、です。よろしくです、うざを」
早速、生物に名前をつけた少女は、両腕にしっかりとそれを抱えて嬉々として去っていった。

―End―




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