とある一日
(執筆:玖音白斗様)
芭甄は今日も今日とて、暇を持て余していた。
主であり絶対の忠誠を誓ったセロネは、のんびりと城で読書をしているらしい。『らしい』、というのはつい今し方めごが電報を飛ばしたからだった。
めごが寄越した電報には、
『今日も芭甄は自宅で待機していろ、とセロネ様が仰ったわ。という訳で、緊急事態が無い限り今日もあんたは非番決定』
と呑気に綴られていた。
「また今日もお役御免かよ……」
電報が足に括られていた黒い鳥――人間どもはあれを烏(カラス)と呼ぶらしい――を窓から放してやりながら、芭甄はぼそりと一人ごちた。
毎日魔王の座の奪還を目的とした輩が城に攻めてくる以外は、ここは本当に魔界なのかと芭甄は思う。
多分一般的に【魔界】というのはもっとおどろおどろしくて、魔物どもが絶対の力を持った魔王に跪いたりその力にひれ伏したりするものの筈なのだが。
確かに平和なのは良いと思う。魔界の中でも珍しい平和主義者の芭甄にとったてそれは有り難い。
たとえセロネの御身を守る事が役目だとしても、やはり他の者の引き裂かれた肉片や滴る血などは見たいと思わない。
だからとりあえず、芭甄としては平和なのは良い事だと思うのだが――
「……にしても暇すぎる」
セロネの護衛は、基本的にめごとひきに任せておけば事足りる。何もわざわざ芭甄がしゃしゃり出る事はないのだ。
「けどなぁ……、じゃ俺の立場はどうなるよ」
俺も一応セロネ様をお守りする役を与えられた一人の筈なんだが。ただの邪魔者としか扱われていないと思うのは、果たして気のせいか?
気のせいじゃないんだろうなぁとすぐに自答出来てしまうのは、なんだか物凄く哀しい気がする。
芭甄は頭を一つ振って、気を晴らした。
「いつまでもぐだぐだ考えてられっか! 気が進まねぇがさっさと家事だ家事!」
宣言した直後に芭甄が大きな溜め息を付こうとした、その時。
遠くから、聞き慣れた鳥の羽ばたく音が耳に入った。
芭甄は背を向けていた窓を振り返ると、案の定先程降り立ったばかりの黒い鳥が再来している。しかもその足には、ご丁寧に畳まれた紙が結び付けてあった。
「何だ……?」
また電報なのか。
窓枠から身を乗り出し、電報と思わしき紙を解いて素早く目を通す。
それは、またもやめごの筆跡だろう電報だった。
『またまたセロネ様の言伝よ。明日も何も無いと直感が言うから、お前は明日も待機していろ、ですって』
「…………」
芭甄は何も言わず、無言のままへたりと座り込んだ。