ぴりあといっしょ


「明日はちょっと用があるから、ぴりあはお休みね」

最愛。の主である浹にそう一言告げられ、潜んでいた影から姿を現したぴりあはあからさまに不服そうに顔を歪めながら

「ぴりあはずっと、一緒にいたいです」

手にしたうざをに縋るように力を込め、浹へ呟きを返した。

「うん、でも明日は駄目なんだ。なるべく早めに帰ってくるから、ね?」

「…はい」

普段と変わらず優しい笑みを浮かべているものの、声色が微量なれど低い。
何を云っても無駄なのだと解し、ぴりあはこれ以上困らせぬよう静かに承諾した。









「で、これは一体何ですか?」

強い日差しに目覚めて部屋を見渡せば床一面に薔薇が敷かれている。

「薔薇、なのです」

「うん、薔薇はわかるよ」

恐らく事の原因であろう人物。
もとい敷かれた薔薇の中心と思われる位置に座っているぴりあに、まるで当然のごとく言葉を返され部屋の主である木崎彩貴は脱力した。
気を引こうと日夜存在アピールしてはいるものの努力実らず普段自らが会いに行かねば姿すら見せぬぴりあ、が、わざわざ自宅にまで来てくれたことはとてもうれしい。
うれしいけれどさすがにこの状況を一体どうしろ、と云うのだろうか。

「ぴりあ、やりたいことがあるのです」

呆然と薔薇の床を眺めていた彩貴にぴりあは真剣な面持ちで話し掛ける。
その声に現実へと引き戻された彩貴は一体何なのだろうと不思議そうに首を傾げた。

「あの、お花畑の真ん中で追い駆けっこがしたい、のです」


―ずるっ―


眼差しは真剣なままで発せられた願いに、彩貴は危うくベッドから落ちかけた。
寸でのところで態勢を建て直せはしたものの先程の無駄にシリアスな空気はなんだったのだろう。
と云うかものすごく聞き間違いであってほしい。
心からそう願いたい。

「えー…と、何か俺花畑で追い、駆けっこって聞こえちゃったんだけど「はい、くるくる時計と反対回りに」あ、やっぱ聞き間違いじゃないんだそうですか」

切なる願いも抱いて早々に打ち砕かれがくりと肩を落とせばぴりあはどうかしたのか、とでも言いたげに心配そうに見つめてくる。
ああ、ちょっと可愛すぎやしないか。とは素直に想うし自分に対し滅多にすることのないお願いとあらば喜んで聞き届けてあげたい。

聞き届けてあげたい、とも想うが如何せんこの年で花畑は頂けない。
ピクニックに行く程度ならまだしも追い駆けっこをするなんて一体全体どんな恥辱プレイですか。
しかも今の季節は冬。
駆け回る以前に肝心の花畑が何処にあるのか全く見当もつかない。つか寒い。

「…駄目、なら他を当たり、ます」

「へ?」

「今日は健も真由、もお仕事がお休みだと云っていたです」

「えっあ、ちょっ…ちょっと待ってソレって‥」

浹の次に俺を優先して誘いに来てくれたのであろうか。
不服ではあるが浹以外に自分よりも仲がいい人物は2、3人ほど確認している。
先に出た健も真由もその内の一人だ。

「?、彩貴…?」

急に言葉を紡いだかと想えば中途半端に切り黙りこくった彩貴に
微かな不審を抱きながらぴりあは控えめに声をかけた。

「あ、いやごめん何でもない。行くよ行く。でも花畑は午後にして午前は買い物でもしよう?志紀も誘ってさ」

その声ににこりと笑みを浮かべながら彩貴はやわらかく言葉を返せば

「はい、です。ぴりあ、リビングで待っているので支度が出来たら呼んで、ください」

ぴりあの表情にふわり、愛らしい笑みが作られる。

「はいよ。すぐ行くからテレビでもみててね」

その様子に満足気に答え、リビングへ向かったぴりあを見送った彩貴は手早く支度を始めた。

午前は志紀と一緒にぴりあと遊ぶだけ遊んで、午後は健と真由を道連れにしようと一日のプランを脳裏に浮かべながら。

2006.12.24




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