積もりましたよ

空は快晴。大地は三日間降り続けた雪で、きれいな白に染められていた。

降り積もった雪を目の前にしたら、やることは二つ。
と、いうわけで。
早速作ってみたよ。
特殊警察本部前で大きなかまくらと雪だるまを背に、腰に手を当てながら綾瀬が和人に告げた。
余程雪が積もったことが嬉しかったのか、浮かべた笑顔には珍しく斜めに構えたものがない。
かまくらの中には健と鈴希それに春菜がおり、仲良く鍋を囲っていた。
笑みを絶やさず鍋をつつき合う様子は傍からみればなんとも微笑ましい光景である。

和人といえば、
手元でそっとすくった雪を圧していた。
そして、数秒の間を置き、にっこり。満面の笑みを浮かべた直後、勢い良く作った雪玉をかまくら目がけてブン投げた。
銃、刀、ナイフ、そして雪玉。狙いの正確性はなんであろうと等しく
普段から鍛えているその腕力と握力は刑務官の中でもトップクラス。
更に能力で重量を増し放たれた雪玉は弾丸の様な速さでかまくらを直撃・跡形もなく粉砕した。

「あぁああぁぁあぁー!!ひどい折角作ったのに!!費やした私の労力、どうしてくれんの!?」

悲鳴を上げて粉々になったかまくらへ駆け寄り、綾瀬が和人に非難の声をあげる。

「あ?雪は積もったら投げつけるもんだろ」

「投げつけないよ!どこの悪ガキ!?和人そんなだから自分勝手だ非道だとか、短気だ心が狭いだとか、ガキだとか友達少なそうとか言われるんだよ!!」

「うるせえ!俺は冷え性なんだよ!!こんな寒い日にくだらねえ用で外引っ張り出されて大人しく引き下がれるか!つーかお前にだけはどれも言われたくねえよ!!」

「あーもう!ああ言えばこう言う!減らず口な男なんて最近の若い子には受けないよ!ていうか私友達多いもん!」

瞬時に雪をすくい玉を作っては投げつけながら、和人と綾瀬が罵倒を始める。
要は喧嘩になったのだ。
和人に勝らずとも劣らない身体能力をもち、かつ、持ち前の能力で雪の強度をあげる綾瀬。
それに和人の投げ合う雪玉はもはや弾丸以外の何物でもなく、周囲には流れ弾に当たった哀れな屍が増えていった。



そして、壮絶な合戦の末。

さすがにスタミナの尽きてきた和人と綾瀬は、少し疲れた様子で一触即発。
じっ、と睨みあっていた。
屍、もとい巻き添えになった人はその数を増し辺りに転がり。
人に雪玉が直撃した際、飛散した鮮血で所々赤く染まった雪はその惨状をより悲惨なものにしている。
運良く雪玉には当たらなかった雪だるまを背に腰を下ろした綾瀬に、和人は小さく息をはく。

「今日の昼飯、中華でいい?」

「イタリアンがいい」

「じゃ、リタルダンドな」

「結構遠いね」

立ち上がりぱんぱんと乱れた隊服を叩き整え、綾瀬は軽く体を伸ばした。
辛うじて被害を受けずにすんだ同僚達は、和人と綾瀬の変わり身の早さに唖然とする。
一体先程までの剣幕は何処へ行ったのか。
悲惨な戦場跡と、何事もなかったかのように会話を交わし本部へ入っていく二人を見比べ、一同は揃って首を傾げた。


「あ、」

「何?財布でも落とした?」

昼飯時、突然声をあげた和人に綾瀬はあっけらかんとした視線を向けた。

「かまくら。中に春菜居たよな?」

「あれれ?そ、そうだっけ?」

次に聞かれるであろう質問をさとり、綾瀬はぎくりと目を泳がせる。

「…お前、克はどこにやった?」

「さ、さあ。私は会ってないよ」

「本当に?」

「ひっどいなあ、相方を疑うっていうの?」

むっとした様子で綾瀬は口を尖らせ顔を背ける。
春菜が居た。と言うことはその相方である克も現在本部に顔を出していることになる。
更に、何故だか克は綾瀬に執心していた。
来て早々本部長そっちのけで行くとしたら綾瀬の所だろうことは
今までの本部来訪における行動パターンから容易に推し測れる。
そして、綾瀬はというと。


逆に克が嫌いだ。


「…、…」

「…、…」

「…、まさか。お前…」

「…、あ。あは。人が消えちゃうなんて、世の中不思議だねー」

遠い彼方。明後日の方向を見つめ、ケタケタと不自然極まりなく笑う綾瀬を放り出し
和人は雪だるまのもとへ駆け出す。

「あ!ちょっちょっと、壊さないでよー!」

「うるせえ黙れ」

叫ぶ綾瀬をぴしゃりと牽制し、和人は即座に雪だるまに向かって雪玉とは名ばかりの殺人玉を投げつけた。
途端、和人の二倍ほどもある雪だるまはあっけなく粉砕、崩れ去り。
中から凍死寸前の克が発掘された。

「……、あやーせ。どういうことだ?」

にこりと笑って和人が振り向く。
その笑みに綾瀬は歯切れ悪く言い淀み、


逃げた。

しかし、綾瀬の行動を予見していた和人に先手を打たれ敢えなく捕まってしまった。

「謝れ」

「めんご」

「誠意が欠片もねえな」

それ以前に言葉そのものがおかしいよ。
見ていた回りの人間の心中などお構いなしに綾瀬の謝罪が続く。

「ごーめんごー」

「やる気ねえな、おい」

「いやいや、いつものことだしな。もういいさ」

和人を諫め、克がころころと笑う。
殺されかけてこの謝罪。本当にいいのか。
と思うが本人がいいと言うのだからいいのだろう。

「とりあえず、飯食いに行くか」

腹減ったし。と続けた和人の一言に謝罪から解放され、ふんぞり返っていた綾瀬が固まる。
もしかしなくとも克も一緒になると察したからだ。

「や、やだやだ!これと一緒だけはやーだー!!」

必死の形相で訴え騒ぐ綾瀬の弁慶の泣き所を、和人が容赦なく蹴飛ばす。

「てめぇに発言権はねえ」

更に、吐き捨てるように告げると悶える綾瀬を手際よく車へ放り込む。
そして、克が乗車したのを確かめるとイタリア料理専門店“リタルダンド”へ向かうべく車を出した。




その頃、

かまくらの大破に因り雪に埋もれた健、鈴希、春菜の三名は。

「あんのくそガキ。ほんまいっぺん泣かしたる」

「金子隊長、金子隊長。微妙に訛りでてます」

「どうでもいいわ。それより、いつになったら出られるの?」

「さあ…?」


未だ雪に埋もれていた。

2007.3.3




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