そんな許嫁


「で、いきなり呼び付けて何の用だよ。つまんねぇ用事だったらその髭剃るぞ。あ、後陳さんが休みと給料寄越せって言ってた」

幸一の座るソファと向かいにあるソファに腰掛け将貴は用件を問うとともに陳の要望を伝えた。
しかし、平然を装ってはいるものの雅美の問題発言のせいで心中はかなりハラハラだ。
そんな将貴を余所に神妙な面持ちで幸一は口を開いた。

「将貴…高校、大学。そして特警への就職に一人暮らし。大体の事はお前の好きにさせて「いや、好きにっつーか親父が義務教育終了したからこれからは家継ぐまで自分の力で暮らせよって家と家具だけ寄越して追い出したんじゃん」」

将貴、空かさず幸一の台詞を途中で強制訂正。

「だが、今回ばかりはそうもいかない」

「俺の話聞いてる?あ、聞く耳持たずですかそうですか」

しかし雅美同様軽くスルーし話を進める幸一に意見する気も削がれ孤独に自己完結して終わった。

「岡家の為、むしろ可愛い娘が欲しい俺たちの為お前には二条家のお嬢さんと近い将来婚約してもらう。て云うか俺、息子より娘が欲しかったんだよ。いやマジで」

「Σはい!?ちょっちょ!それこそ俺の自由にさせろって!つーか普通に本音出してんじゃねぇよ!明らかに誕生を望んでなかったような発言本人を前にすんなよ!せめて心の中で呟いて!」

将貴、先程より遥かに激しく抗議するも

「因みにもうあっちとは話が付いてるから。いやぁ、噂には聞いていたが実際見たら礼儀正しい素敵なお嬢さんだったぞ。さすが二条家の娘だな。ちまっこくて可愛いし」

やはりスルー。

「そりゃ二条の連中は皆礼儀正しいだろ。あー、なんかもうどうでもいいや。一応聞くけど本家?分家?どんな図太い精神の持ち主?」

言葉通り何もかもどうでもよくなったのか将貴は机に突っ伏しながら尋ねる。

「そうかそうか、お前も相手が気になるか。それなりにお前の性格と好みも考慮してみたんだぞ。あ、本家筋の娘な」

…おいおい、よりにもよって本家かよ。てかあそこ俺好みなの居たっけ?

今までの経緯から都合のいい言葉しか幸一の耳には入らないと判断した将貴は雅美の時同様胸中で疑問を吐き出す。
と同時に幸一はパチンッと爽快な音を鳴らしSPと許婚であろう女性をリビングへと招いた。
未だ机に伏しつつ将貴も傍迷惑な両親の気紛れに選ばれた犠牲者が気になるのか視線を送るも束の間。

「ΣΣΣんまままままままっ真由ゥゥゥウゥウウウ!!!!!?」

将貴は勢いよく顔を上げ、住宅街だったら煩いと苦情が殺到するのではと思えるほどの叫び声上げた。
SPと共に出てきたのは母方の姓に二条を持つ、二歳年上の幼なじみ。須藤真由。
しかし、何か異様に違和感がある。

「あら、幸一さん。駄目じゃない、大事なお嬢さんを縛り上げるだなんて」

Σ原因はソレか!

ふと傍観者と化していた雅美の一言に将貴は頷いた。
否、頷いている場合ではないと抗議しようとした瞬間、

「大丈夫。ご両親も合意のうえだしそれ程きつくしてないから」

さらりと笑顔で幸一が雅美に答えた。

「まあそうなの?それなら安心し「ないでおふくろ!親公認でも本人が希望しなけりゃ犯罪だよ!訴えられたら勝てねぇよ!!!」まあまあまあそうなの?」

幸一の言葉にほっと一息つく雅美に将貴は早口でまくしたてた。
一体何に安心したのか皆目検討もつかない。

「や、俺だって穏便にいきたかったけど付いてたSP三人とも返り討ちに合うし」

「Σマジで!?よく捕獲できたな」

「ああ、多数の犠牲は出たが最終兵器・浹塚氏の写真(盗撮)にうまく気を取られている隙を付いて無事、な」

「……、真由さーん?」

「笑うなら笑いなさいよ。浹塚部長のワンショットなんて年に一枚手に入るか否かの貴重品なのよ。特警でも欲しがる人は沢山いるけどぴりあっちと白髪のガードが固くて、実際所持してる人は片手で数えられるくらいなんだから!」

幸一越しに物凄く訝しげに自身を見つめる将貴に、冷静に切り返す真由。
レアなのはわかったし真由が本部長を好きなのは知っている。
が、ココまでとは…つーか何さり気なく犯罪行為してんだよ親父。
被写体も俺もついでに真由も一応警察なんだぞ、こら。
とプチ引き気味に将貴は幸一に、先程から抱いていた疑問を投げ掛けた。

「あのさ、捕獲の実態はともかく。抵抗された時点で明らかに嫌がってない?」

「単なる照れ隠しだろ。なあ真由ちゃん」

「あらやだ岡のおじさまったら。私が将貴ごときに照れる要素なんて一つもないじゃないですか」

幸一にさり気なく振られた話題に真由は美しい微笑、基絶対零度の微笑みとさらっと酷い返答を返した。
当然のごとく目は笑っていない。
むしろ見るからに早く縄を解けと物語る殺気混じりのオーラを漂わせている。

「将貴…お前、嫌われてる?」

「九割方親父のせいでな」

深刻な顔で問う幸一に残りの一割は助けなかったおふくろね。と将貴は一言添えた。

「まあいいや。俺今から大事な打ち合せがあるから後よろしく」

「もうそんな時間?私も早く用意しなくちゃ」

「Σなっ勝手に呼び出したくせに嫌なトコで放置プレイかよ!?てか縄解いて土下座してって!俺、真由の報復に耐える自信全くもってゼロだよ皆無だよ!!!」

しかしさすが岡夫妻。
突然の外出宣言に冗談じゃないと云わんばかりに叫んだ将貴の切なる主張も当然のごとく流し、幸一・雅美退出。
ついでに真由の縄を解きSPも申し訳なさそうに早々と退出。
残された二人の間にはかなり気まずい空気が流れた。
と云うか未だ微笑みを浮かべる真由に将貴は引きつった笑みを浮かべ動く事すらままならない。
正に蛇に睨まれた蛙状態である。

「……お、怒ってらっしゃる?」

「当たり前じゃない。こんな仕打ちされたの初めてよ」

「ですよねー…」

始終笑みを絶やさない真由。
正直無表情で居てくれた方がまだましだ。

「まあ浹塚部長の生写真が二枚も手に入ったから今回は見逃してあげなくもないけど、ネ」

えっそりゃ助かるけど写真ごときにどんだけの価値観見出だしてんだお前!?てか何で語尾が片言??

何だかよくわからないが報復は免れた様だ。
しかし幼なじみの予想だにしない一面に、正直とても複雑な心境である。
しかし口にだせば長い本部長語り又は辛辣な言葉攻めを受ける事は明確なため、沸き起こるツッコミは胸の内へとそっとしまわれた。

「そんな事より、どうすんのよ」

「どうするも何も俺、真由と結婚なんて家のペット追い出すより嫌だし」

「何で比較対照が器物なの。それに、私だって相手があんたなんて冗談じゃないわ。あ、でも浹塚部長か三村隊長なら大歓迎よ。つーか異議を唱える奴が居たら全身の骨砕いて串刺して海の藻屑にするけど」

うっわマジでやりそうだから笑い飛ばせねぇ。てか本部長と和兄が拒否ったらどうする気だ?

「浹塚部長と三村隊長は勿論対象外よ。私より二人の意志を尊重したいもの」

読心術でも使えるのか真由は将貴の疑問を即刻回答する。

「あー、色々ツッコミたいけど取り敢えず親父たちを説得しないとだな」

「私たちの意見を聞いてくれたらの話だけどね」

「無理だな」

「でしょうね」

何だかんだ云って仲はいい二人はとにかく考え得るだけの案を出し一つ一つ駄目出し・改善をしより有効な案を提案し合う。
しかし、いくら考えても互いの両親を言いくるめ婚約破棄に持ち込むいい手立ては思いつかない。

そして、二時間にも及ぶ思案会の末。
遂に面倒臭くなった二人は個々に打開策を考えながらそれぞれ自宅へと帰ることにしたのだった。




真由は浹の生写真を手に入れた。

将貴は真由と共同戦線をはった。

2007.6.4




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