お呼び出し


「ったく可愛い息子ほっぽりだして用がある時だけ呼ぶなよなー。や、でも頻繁に呼ばれてもウゼェな。つーか親父らが家に来ればいいんじゃねえの?いや、それはそれでウゼェな。アレ?じゃどうすりゃいいんだ?つーかなんで悩んでたんだっけ、俺?」

一人問答をしながら岡将貴は長い直線道路をヘルメットもかぶらず金色に染めた髪をなびかせ原動機付自転車で走っていた。

事の経緯は時を遡る事三時間。
久方ぶりの休日に親友である明・孝也と商店街で遊んでいた将貴の携帯電話が軽快な着信音を鳴らした。

「将やんお呼びだしでやんす」

「女なら泥沼前に逝けよ」

「待って明ちゃんやんすって何やんすって。てか孝也は孝也で何さり気なく厭な変換かましてんだ、おい」

鞄の中の携帯を探しながらも取り敢えず将貴は親友二人にツッコむ。

「あれ、将やん俺達と云うモノが在りながら何時の間に女なんてつくったのさ」

「大方道端で拾ったんだろ」

「何だ、拾いものか」

「おーい、お前等後で覚えてろ。絶対泣かす」

将貴のツッコミもなんその。勝手に話を進める明と孝也に将貴はにこりと極刑を宣言し探し当てた携帯に出た。

『もしもし、将貴?オレオレ』

「すんません。オレオレ詐欺なら間に合ってます。これ以上生活費削らせないでお願い。そしてさようなら」


−−ピッ−−


「将やん…団子なら奢るよ」

「ラ・フランスの香だけなら味あわせてやれるぞ」

「えっ何で俺そんな哀れみの眼差しと同情買ってんの?つーか孝也本気で殴っていい?」

電話を切ったのも束の間、振り向けば同情なのか馬鹿にしているのか絶妙な言葉に引きつった笑みを浮かべる将貴。
友達の人選間違えたかなと本気で思った瞬間だった。そしてまたも携帯から軽快な着信音が鳴り響く。

「何だよ陳(チン)さん。しつこい男はモテないぞ」

『いやいや将貴が電源ボタン押さなきゃ一回ですんだヨ。人の話はちゃんと最後まで聞くべきネ。で、本題だけど会長が呼んでたヨ。何か凄い笑顔だったネ。恐いっつーの。じゃ、再見!』


ツー、ツー、ツー…


陳と呼ばれた男は再度電話に出た将貴の抗議も軽く流し用件に余計な一言を添え、早々に電話を切った。



「何、何。パパさんに補導と連行回数4桁記録したのバレたの?」

「いい加減免許とれよ」

「そんな金家にはありませんことよ。つーかまだ4桁も数えてねぇよ!…ん?…あれ、そういや昨日で達したんだっけか?あー、まあいいや。取り敢えず帰るわ」

「はいはい、またカツ丼奢られないようにね」

「斎藤さん自費で出してるみたいだしな」

「「ΣΣΣえっマジ!?」」

学生時代から補導・連行される度にカツ丼を奢ってくれていた斎藤刑事のカツ丼代の出所を知り明と将貴は声を揃えて驚く。
しかし衝撃の事実を知ったところで無免許運転を止める筈もなく、将貴は明・孝也と別れ動物園と化している自宅に原付を取りに帰った。


そして現在に至る。


「ここからが長いんだよな。金があるからって山一つ買うことねえっつーの。これだから金持ちは困るんだよ」

未だ独り言の耐えない将貴は岡家の表札が掲げられた外門を越え尚も原付で長い道程を走る。
が、綺麗に整備されているとは云え目指す先は頂き。
意外に標高が高く面積も広いためとにかく遠い。
訪問者が飽きぬ様外からも眺められるコスモスやパンジー、百合、薔薇等の室内庭園や綺麗な川。
家主のセンスの疑われかねないモアイ像や各国の珍妙な置物が所々並べられた広場等、とにかく色んなモノがあったりもするが見慣れた将貴にとってはかなりどうでもいいものであった。


「おっ正門発見」

舗装された上り坂を走ること小一時間。
徐々に近づいていく二つ目の門に将貴はアクセルを握り速度を上げた。


「お帰り将貴。意外と早かったネ」

「ただいま陳さん。見ない間にちょっと老けこんだな」

門を通り抜け笑顔で出迎えた陳に将貴は悪気もなく挨拶といらない一言を返す。

「二ヵ月給料滞納に休暇もなしじゃ老け込むのも当たり前ネ」

「あ、また忘れられてんだ。後で言っとく」

「将貴が最後の希望ヨ。頼んだネ」

その一言を聞き逃す事無く空かさず雇い主である将貴の父への不満を述べる陳に将貴は胸中で合掌し、陳の給料と休日要請並びに父の用件を聞きに豪邸へと足を進めた。



「あら、早かったのね将ちゃん。ママ待ちくたびれて千羽鶴作り始めちゃったわ」

「ただいまおふくろ。誰か入院でもしたの?てか何か台詞が凄い矛盾してない?」

父の居るであろうリビングへ入ってすぐかけられた母・雅美の言葉に取り敢えず素直な疑問を投げ掛ける将貴。
しかし、

「あらやだ将ちゃんたら見ない間に随分背が伸びたのね。それにとってもママ好み。そろそろ幸一さんから乗り換えようかしら」

雅美からまともな返答が帰ってくる事は無くむしろ家庭崩壊を匂わせる発言が飛び出した。

……うっわ、何か凄い殺意の籠もった視線を感じるんですけど。

これ以上雅美に言葉を投げ掛けても時間の無駄と察した将貴は取り敢えず今の心境を胸中で呟いた。
視線を送るのは無論父・幸一。
愛する妻の問題発言をリビング奥の暖炉でソファに腰掛けファッション雑誌を読んでいた幸一が聞き逃す事はなく、我が子に向けるにはあまりにも冷たい殺気を帯びた視線を今正に将貴へと向けている。

「そうそう、お友達の明ちゃんや孝也君に憲二君もいいわよね。晋吾君なんかまだ若いのに世界指折りの資産家だし」

「あー、はいはい。親父んとこ行くからその話は永久に封印しといて」

尚も楽しそうに発言を続ける雅美にStopをかけ将貴は未だ殺意の眼差しを送る幸一のもとへと足を進めた。

2007.6.4




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -