トドメは味方から

PM.13:02

類似した二つの影−その主である志紀と彩貴は人気の少ない港の倉庫裏口の片隅で足を止めた。
ブーツの底が固いコンクリートの地面を打ち鳴らす。
倉庫の中は壁際に不要になったのか、未だ使ってはいるのか定かではない機材やペンキ等が無造作に置かれあまり整備された様子はないがその他は汚い。とはいえ人が出入りするには十分なスペースが残っている。
そんな倉庫の中心付近では灰色のスーツを着た中年の男が一人、いかにもなミリタリー風の装いをした男が二人、向かい合っていた。

「データは?」

「その前に、本当に身の安全は保証してくれるんだろうな?」

二人組の男からの要求に中年の男が質問で返す。

「当然だ。あんたの保護に関しても任務の内にある」

「それならいい。データはこれにコピーしてある」

納得したように頷くと、中年の男はスーツの内ポケットから透明のケースに納めた一枚のディスクを取り出し、二人組の男に差し出す。
それに男の一人がゆっくりと歩み寄ったその時を志紀と彩貴は見逃さなかった。

「ディスクもーらいっ」

「特警だよっそこ、動かないで」

先に小さな重りを付けた紐を投げつけて器用にもケースに絡ませ、ディスクを奪い取ると彩貴は大きくVサインをした。
その斜め後ろからは志紀が拳銃を構えながらバッジを掲げ男たちを牽制する。が、

「「ギャースッ!!」」

志紀と彩貴を敵と見るや二人組の男が持っていた銃を引き抜き発砲。
志紀と彩貴は間一髪、機材の影に隠れ難を逃れた。

「ななななになにっなんなのあの人たち!?超危ないんですけど!」

「死んだかと思った…!」

転がり込んだ場所にしゃがみこみ志紀と彩貴が高速で、しかし声量は押さえながらまくし立てる。
どうやら反撃されるとは微塵にも思っていなかったようだ。テンパり具合も絶好調である。
そんなつかの間のテンパりタイムは志紀と彩貴の頭上を過ぎた轟音と共に終わりを告げた。

「「マ、マジ…ですか」」

轟音に当たったと思われる箇所へ焦点を合わせると、志紀と彩貴は引きつった笑いを浮かべ青ざめた。
そこにはあまりにも不自然に焦げ上がり変色した壁。

「「あああの人たちの、能力者あぁあああ!?」」

焦げ跡からして属性は火だろうか。
微かに黒い煙が上がって見える。

「おい、殺るのは構わないがディスクまで燃やすなよ」

「わかってるって。おい、サツ共!死にたくなけりゃ大人しくディスクを返しな!」

「やだ!」

「渡したってどうせ殺る気なんだろ…!」

「よくわかったな」

「「ひいぃいいっ!」」

唐突に人の悪い笑みを浮かべた二人組の男の一人が再び志紀と彩貴目掛け巨大な火の玉を放つ。
志紀は左手に、彩貴は右手に転がり飛んできた火の玉を避ける。

「ちっちょこまかと動くんじゃねぇ…!」

「「無理!!」」

再々数回に渡り火の玉を放つも、ことごとく避けられ火の玉を発生させた男が怒鳴る。
そんな男の言葉を志紀と彩貴は声を揃えて断固拒否った。
その即答ぶりから真面目に死にたくないようだ。

「どどどどうする!?」

「どうしようもない!」

「確かに!…って志紀諦めモード全開!?」

「だって怖いよー怖いもんー」

彩貴のツッコミに志紀は活路を見い出すどころかなんと泣き言を言い出した。
しかし火の玉はちゃんと避けている辺り、やはりこんがり焼かれたくはないようである。

「和人隊長と綾瀬隊長の方が絶対怖いって!」

「確かに!…と、とにかく外出よっ」

どれだけの恐怖心を抱いているのか。攻撃を仕掛けてくる男と上司二人を比較して、志紀は即座に現実に引き返した。
そして付近まで後退していた裏口から志紀と彩貴が外へ出ようとするが、

「そうはいかない」

「彩貴っ!」

「うっわ!あああ危なっ」

寸でで火の玉を放っていた男の片割れが繰り出した刀の刃を彩貴が間一髪のところで避ける。
そういえばもう一人いた気がしたがこいつだったのか。思って志紀と彩貴は頭の片隅でああ、とすっきりしたものを感じた。
大して動く様子がなかったため物忘れの激しい二人はその存在をきれいに忘れていたようだ。
しかし今は裏口を塞ぐように立ちはだかれてしまい、嫌でも存在を意識せざるを得なくなってしまった。
一言でいえば激しく邪魔で仕方ない。

「えー…と、もしかしなくて、も?」

「能力者さ」

「ですよねー、」

彩貴の言葉の意図を読んだ男は一言告げると、刀を翻し再び彩貴に襲いかかる。
彩貴は堪らず抜いた刀でそれを防いだ。

「彩…ひょわっ」

彩貴を助けようと動こうとした志紀に、刀の男とは別方向から数発の銃弾が襲いかかった。
反射的にしゃがみこみ銃弾をやり過ごした志紀が飛んできた方を向くと火の玉男が空いた手を降っている。
その肩の付近には明るく辺りを照らす巨大な火の玉が二つ。
志紀は手を振る男に笑顔の特典を付けて手を振り返した。笑顔が思い切り引きつっていたのは言うまでもなく、志紀の対応を皮切りに火の玉が放たれた。

「やーだー!焼死体で発見☆なんてダサすぎるー!」

「っ志紀!」

「よそ見は関心しないな」

「あ、しまっ…」

叫びながらうずくまってしまった志紀に気を取られた彩貴の隙をついて刀の男がその刀を弾く。
弾かれた刀は宙で見事な孤を描き、地面に吸い込まれるように深々と突き刺さった。
それを眺め刀の男が、

「終わりだな」

肩で息をしつつも不敵な笑みを零した。




「へぇ、無傷か。お前らにしては上出来だな」

「が、ぁっ」

直後、冷然とした声と共に志紀に迫っていた火の玉が消え失せ刀の男が呻きながら裏口の戸に叩きつけられる。

「ぶっ」

更に地面に前のめりになって倒れるや否や後頭部を踏みつけられ、刀の男は強制的に地面と熱いキッスを交わすことになった。

「「か、かかか和人隊長ぉおぉおお!!」」

声の主を視界に映し志紀と彩貴は心底嬉しそうに顔を綻せると、プルプル瞳を潤ませて和人目掛けてジャンピング。余程嬉しかったのか惜し気もなくその喜びを大いに体現した豪快な飛びっぷりである。
そんな双子に和人も微かに口元に笑みを浮かべた。
歯車史上初。
感動のシーンが今、繰り広げられる筈もなく。


「うぜぇ」


笑みを湛えながら右手に彩貴、左手に志紀の顔をキャッチ。基、鷲掴み和人は勢い良く二人の後頭部と後頭部を衝突させ捨てた。
その流れるような動作は一欠片の無駄も、情けもなく。それは見事なものだったそうな。(綾瀬談。)

2008.6.11




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