喧しい双子

特警関東本部本部長室前。

「入るぞ」

三度のノックの後告げると和人はドアノブを回した。
依然、綾瀬はハムスターの様に頬を膨らませてぶーぶーと鳴き止まない。
お前はどこのだだっ子だ。
思いながらも和人は面倒くささに放置プレイに持ち込みノータッチ。
綾瀬は大変不満そうだ。

「うあーん!和人隊長ぉおぉおおっっ!!」

本部長室のドアを開くと同時に、和人目がけ何かが飛び付いてきた。

「ふぎゃっ」

しかし、幼少から培われてきた反射神経は伊達ではない。和人は僅かな動作で飛び付いてきた物体を避け、さらに背を踏み付けるとぐりぐりと床に押し付ける。

「アウチアウチッギブ!ギブギブミーッッ!!」

「チョコレートならねぇぞ」

「ガビーンッ!!」

「残念だったねー」

口で擬音を叫ぶ人物の面前にしゃがみ綾瀬は笑いながらそのデコをつついた。
目算が外れたらしき人物は床に頬をくっつけてガックリしている。どうやらチョコレートが欲しいが故のダイブだった様だ。
因みに背中は未だ和人に踏みつけられたままである。

「そういや片割れはど「あぁああぁあああっ!彩貴ずっこい!私を差し置いて遊んでるなん」やっかましい!!」

「ノンッ!!」

所在を訊く前に彩貴にも勝るとも劣らぬ大声を上げて現れた彩貴に瓜二つな片割れ。こと志紀の足下を和人が撃ち抜く。
ただでさえ彩貴をかわすのに無駄な労力を使ったのだ。これ以上馬鹿を増やす気もなければわざわざ付き合う気もない。

「うああーんっ浹ー!今の見た!?見たよね!?和人隊長が撃ったー!!」

「駄目だよ、和人。床が可哀想だろう?」

「ΣΣそこ!?」

和人の横暴に対する志紀の力強い訴えを浹は朗らかに退けた。
和人の任務外での銃の所持及び発砲に関してはごくごく自然にスルーしている。
特警の総督、浹基準では許容の範囲内であるらしい。
どこまでも広い心の持ち主である。


「問題ない。修繕費は双子の給料から差っ引く」

「「Σんなっなななして!?」」

きっぱりと言い切る和人。
予期せぬ給料の危機に志紀と彩貴はハデなリアクションを見せる。
双子、とは志紀と彩貴の事だ。二人は姓を木崎といい、見た目その他特徴が瓜二つな一卵性双生児である。
特警では刑務官部隊に所属しておりそのお喋り・ツッコミ・テンパり具合に関しては群を抜いてレベルが高い。反面、空気が読めないと言う欠点を抱えている。
しかし当の本人たちは全く気付いていない。

「そっか。よかったね、ぴりあ。二人が負担してくれるって」

「はい、です。至急業者さんを手配、する、です」

「「ΣΣええぇえちょっ!えぇええぇえええ!?」」

どうやら和人の言葉に浹は納得がいったようだ。
そんな浹の声に、浹のデスクの陰からぴりあが顔を出す。そのままいそいそと業者へ電話を掛けると、受話器を片手に床に寝そべり、何故か頬擦りを始めた。
うざをもまた、ぴりあ同様床へ倒れ込むとすりすり頬擦りを開始する。
よくわからないがどうやら床の感触が気に入っているようだ。が、端からみたら正直気味が悪い光景であることは否めない。
見た目の可愛らしさも台無しである。
そして、双子はなんで!?とばかりに絶叫真っ最中。
ついでに話の渦中から外れている綾瀬はと言うと。
耳栓を装備し、ちゃっかり絶叫を回避していた。

「ってあぁあああぴりあっちだ!ぴりあっちがおる!」

「うああああっんかかかかかわゆっかんわゆ

―パキュンッ

ひぃやぁあぁああっっ!!てっ敵襲!敵襲ーっっ!」

「いいいたいたいっいたいです!隊長ぉおおっ!」

ぴりあの発見に嬉々として騒ぎ出した彩貴の背を思い切り踏み付け、志紀に向かって再び発砲すると和人は満面の笑みを浮かべ、


「だ・ま・れ」


「「はははは、はひぃっはいぃいい!!」」

見事双子を黙らせた。




そんな経緯で、

本来の穏やかな静けさを取り戻した室内は先ほどと変わり、和人と綾瀬は備え付けのソファに座り双子は部屋隅、観葉植物の隣で仲良く正座。
ぴりあは今か今かと業者を心待ながら、浹のデスクを軸にくるくる歩き回っている。その後に続くのはもちろんうざをだ。
存在感が皆無に近かったが元から居たらしい健はせっせと綾瀬に紅茶を淹れている。

「で、何でこいつらいんだ?」

健が淹れた紅茶のティーカップを片手に和人が疑問を呈する。先の克と春菜との合同任務以外で二組以上の刑務官が同時に呼ばれるのは稀であり、本部長室で鉢合わせることは少ない。
サボっていたと言うのなら話は別だが。

「また合同ってワケじゃないんでしょ?双子ちゃん弱いし」

「「Σ酷っ!!」」

「綾瀬……、わざわざ付け加えなくてもここにいる全員知ってる」

「おお、そっか」

「「そそそそんなぁあっ!和人隊長ぉおぉおおー!てか綾瀬隊長も納得しないでっ!!手を叩かないでっっ!!」」

綾瀬と和人の無情な言葉に彩貴と志紀はがくりと項垂れた。目尻に涙を浮かべても見向きもされない時点で効果はゼロ。
虚しく時が過ぎていく。

「二人は内部調査の最終報告に来てくれてたんだよ」

そんな二人を見兼ねてかマイペースなだけか、和人と綾瀬の疑問に浹が柔らかく笑んで答えた。
内部調査とは、彩貴と志紀本来の仕事である。
二人は刑務官部隊に所属し、任務もこなしてはいる。
しかし、それはあくまでも本職を他の人間に悟られないための措置であり、その実態は特警内部の監査を任じられている特務員に他ならない。
特警の機密事項の一つである為、その事実を知り得るのは原則として本部長及び刑務官部隊総部隊長に限られ、例外として本部長が信頼を置いている場合に限り本部長補佐及び支部長、総部隊長以外の刑務官部隊隊長となる。

「えっへへ今日現場押さえて身柄確保するんですっ」

「完了すれば今いるもぐらは叩き終わりますよー!」

「へー」

「ふーん」

「ほー」

「「Σそれだけ!?」」

健、綾瀬、和人の順で放たれた何とも興味なさ気なリアクションに双子が揃って突っ込む。さすが双子なだけに寸秒の狂いもない。

「だってそれが仕事じゃん」

「他に何かを求めるなら結果を出してからにしろ」

「もう一社会人なんスから」

ストレートなご意見ありがとう。
結果論者な上司と同僚の流れるような3コンボに双子は社会の厳しさを学んだ。


「それで、任務は?」

双子には飽きたのか、和人が双子から浹へと視線を移し本来の目的であった任務をあおぐ。
三人からの駄目出しのダメージは大きかったらしく、双子は床に倒れ伏している。

「あれ、もういいの?」

「ああ、勿体ねぇからな。時間が」

「「ΣΣトドメッ!!」」

弱りきったところに無情な追い撃ち。直撃した双子はものの見事に凹みきった。
復活には時間がかかりそうだ。

「今回は少し特殊な任務でね。現場検証と犯人特定の捜査から入ってもらうようなんだ」

「うえっ何それめんどくさ」

「警視庁の連中は何やってんだよ」

基本的に特警は標的となる犯罪者が既に特定されている状態で任務が行われる。
犯人特定等の捜査については警視庁の応援の時でもなければ滅多に行うことがない。
ましてや和人と綾瀬は任務に関してはいい意味でも悪い意味でも正直である。
予想通り難色を示した二人に浹は穏やかな表情を崩すことなく詳細を伝えた。

今朝午前七時頃、警察へ一本の匿名の通報があったらしい。
その内容は東京のさる大学の山中にある女子寮で当該寮内の学生を殺害したというものであった。
それも、全員。
更に挑発ととれる言葉を最後にその通話は途切れた。
そして、たまたま居合わせた佐山を始めとする捜一(刑事部捜査第一課)の数名で現場へ向かったのだが…、

「入ろうにも、寮周辺を突風が吹き荒れていて近づくこともできないらしいんだ」

「要はその風どうにかしろってか。よかったな、綾瀬。お前の領分だ」

「あはん?他人事だと思って〜。和人なんてあってないようなもんじゃん」

自分には関係ないとばかりな態度の和人を綾瀬がうふふ。と肘でつつく。
風の能力を持つ綾瀬なら寮周辺に吹く突風をその能力で相殺し発現している間止めることができる。
しかし、重力の能力者である和人は能力による負の影響を受けない。
突風が吹いていようと雷が落ちようと、それが能力者の故意であれば無効化されるのだ。さすがに土などもともと目に見えて実体を持ち存在する物質に関しては避けざるをえないのだが。
しかし、土の能力者でもある上現場では大抵不可視の障壁を形成している為、その点に関しても悠に克服していたりする。
要は綾瀬が突風を止めても止めなくても和人が涼しい顔をして寮に入れる事実に一寸の揺らぎも生じない。
何かセコい気がしなくもないが、能力は生まれながらのモノであるため仕方がないと言えば仕方がない。
それに味方であるうちは心強く何かと便利ではある。
が、やはり何かセコい気がしなくもない。

「安全が確認できたら連絡よろしく。遺体をなるべく早く搬送したいからね」

「了解」

「あは、じゃねBYE-BYE」

「はい!行ってらっしゃいっス!お気をつけてっ」

ソファから立ち上がり、本部長室を出ていく和人と綾瀬に健が明るく声をかける。
浹はニコニコ笑みながら、ぴりあもまた小さく手を振り二人を送った。

その傍らでは、うざをが双子に渇を入れていたそうな。

2007.10.10




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -