迷子保護のお知らせ

崩れた。とまではいかないものの、人気がなくなり鎮まりかえった廃屋の中を歩く陰があった。
なびく黒髪は長く、ほの暗い通路に馴染む黒基調の装束からはすらりとした身体の線がわりとはっきりと見える。
黒い布地で鼻先から下顔半分まで覆ってはいるがそれを除けば慎ましやかな美女だ。

「ええ情報拾ってしもたわァ。高ぅ買うてくれますやろか」

忍装束に似ても似つかないそれを纏う女は差し掛かった十字路を右、左、前と順々に確認すると、何の迷いのない足取りで左通路へと進んで行く。
しばらく進んだところで、今度は二手に別れたT字路に着いた。しかし女はその少し手前で止まり、そこから進もうとはせずキョロキョロと足元を見渡し始めた。
そして近くに落ちていた手のひら程の木の破片をしゃがみ込んで拾い、音を立てないようそっと立ち上がる。そのまま再びT字路へ顔を向けると拾った木の破片をT字路へ向かって放り投げた。
すると宙を舞う木の破片はT字路へ入るやいなや一発の銃弾にど真ん中を撃ち抜かれ直下した。

「さすが、ええ腕やなァ」

女は射手を賞賛するとパチパチ手を叩く。

「あっれ〜。その声おにゃんこさん?」

「へェ、そうどす」

「あーんたっけてー迷っちゃったのー!和人のとこまで連れてってたもー」

女の声にひょっこり顔を出した射手、綾瀬が女にすがり付く。
女は猫と呼ばれる二条飛鳥の茶屋に住み込み働く舞妓であり、京舞の天才とも言われる京都一の花街、祗園の誇る名妓だ。
又、大々的に情報収集がしにくい立場にある飛鳥の代わりに情報収集をする密偵でもある。
飛鳥から特に収集の要請が無ければ金になりそうな情報を独自に集め高く買ってくれそうな相手を斡旋。売り付けている。
猫曰く、その全ては現在恋仲にある意中の彼が定年退職を迎えた後、共にやきとり屋を営む際の開業・運用の資金調達の為だそうだ。

「その為に来たさかい、任せておくれやす」

「あーりがとー!て、あれ。誰かに頼まれたの?」

その為に、と言うことは猫は綾瀬が一人であることを予め知っていたことになる。
直也とのやり取りを見ていたというのなら直也が去った後出て来ていただろう。
ここで鉢合わせることもなければ、わざわざ迎えに来る必要性そのものがない。

「ちゃうよ、女王はんが一人でおる言うてはりましたのぉ盗み聞きしたさかい。お三方はもう外ぉ出はる頃や思いますわァ」

「あは、おにゃんこさん悪趣味だぞー」

「かんにんえ。私(アテ)も金になるネタ欲しかったんやて」

口元を覆った黒い布地を下ろすと、猫はへらりと笑う。

「いいよいいよ、やきとり屋の為だもんね。でさ、佳奈は見た?」

「……、へェ。そのことおついてええ情報ありますよって買うてくれはります?」

言って、チェシャ猫のような笑みを浮かべたまま猫は小首を傾げた。














愛してる。
愛してる。
愛してる。
暗闇に見下ろす世界を染め上げて。
狂ったマリアは真実を口ずさみ。
この世を包む闇より濃く、深いその愛を紡ぎ続ける。

2007.1.1




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テーマ「人外ファンタジー」
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