嘲笑う闇

辺り一面、深い闇に覆われた空間。
漂う空気はただ、沈黙を続けている。


「う……っ、ここは……?」

負った傷の痛みに意識を取り戻した理紗は、朦朧とした意識の中、自宅とは一変した世界を見渡した。
オーバーロードにより侵食された右上半身に感覚はなく、更にとめどなく鮮血が流れている。

小さく紡いだ声は闇へ溶け込みまた静寂ともとれる沈黙が訪れた。

「いいざまね」

「あ、あんた……!」

闇の中で一層濃く深い闇がゆらり、と揺れ、再び沈黙が破られる。
聞こえた声に理紗は傷の痛みも忘れ即座に振り向く。
視線の先には楽しげに顔を綻ばせた髪の短い女と、対照的に長髪の綺麗な男が理紗を見下ろす形で立っていた。

「素質もないのに、私の忠告を無視するから。こんな醜態を晒す事になるのよ」

「っそ、そんなことどうでもいい!救急車、救急車呼んでよ!!」

大量の血を流しずきずきと増す痛みに顔を歪めながら理紗は必死の形相で女の足に縋りつく。

「あら、その必要はないわ」

そっとしゃがみこみ、理紗の手に白く細い手を重ね、女はより深く綺麗な笑みを浮かべる。そして、

「あなたはここで死ぬんだから」

そっと付け足した。
瞬間。理紗の腹部を漆黒の刄が貫く。

「……え…、…?」

一瞬の出来事に理紗は大きな瞳を極限まで開き女の顔を見上げた。
女は視線に応えるように、依然、笑みを浮かべながら理紗を見つめ返して


「かずに触れていいのは、私だけよ」


囁きかけるように一言、告げた。


「佳奈、行きましょう。特警……、彼らと鉢合わせしては面倒です」

理紗には見向きもせず、長髪の男が腕時計を見る。
佳奈、と呼ばれた女はそうね。と応えると男と共に闇の深淵へと消えていった。


闇が消え、異常から正常を取り戻した理紗の自宅には理紗が一人、大量の血に濡れ大きなソファの上にうつ伏せに横たわっていた。

2006.11.11




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テーマ「人外ファンタジー」
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