力の代償

「え、何なの。これ…?」

花の根元には巨大花を発現した理紗がひどく青ざめた顔で座り込んでいる。
その右腕は、まるで根付いたように巨大花に侵食され原型すら留められない程に変わり果てていた。

「オーバーロード、か」

「オ、オーバー…ロード?」

呆れを含んだようなため息とともに紡がれた和人の言葉に、理紗が問いかける。

「能力が制御し切れずに暴走したんだよ」

能力者−と言えど無尽蔵に各種能力を自在に操れるわけではない。
一時に制御できる力には限りがあるのだ。
その限度を超えた状態で能力を使用すれば、制御の枷が外れた力が溢れだし使用者を媒体にして周囲へその猛威を振るいだす。
所謂、暴発・暴走(オーバーロード)を始めることになる。
そのため和人や綾瀬等特殊警察に属する能力者は極力、必要最低限以上の能力の使用は避けるよう浹に勧告されている。
因みに、能力の使用に長けることでその上限を拡げられる事が実証されており、又、その威力や及ぼす効果については能力者の精神状態が深く関係していることも明確ではないにしろ判明している。


「ね、ねぇ…それってアタシ、どうなん…の?」

「…属性、が属性ですし」

「次第に侵食が進んで、植物化するんじゃないか?少なくとも、自我はなくなるだろうな」

「まあ、何にしろ私らじゃ助けようにも打つ手がないけどね」

「…ぐっ」

咄嗟に口に出そうとした言葉への返答を先立って告げられ、理紗は出しかけた声を呑む。

「…、今、なら。腕を斬り離せば侵食は逃れられると思い、ます」

「いや。もう遅い」

右腕を見れば寄生した巨大化の根は既に右腕すべてを侵し、鎖骨まで達しかけていた。

「そ、そんな…どうにか、どうにかしろよ!あんた等警察だろ!?」

「あははは。警察っていっても別に正義の味方ってわけじゃないし」

「大体、おまえの軽率な行動が招いた結果だろ。自業自得だ。助ける義理もない」

不謹慎に笑みながら応える綾瀬の目はひどく冷めている。
続く和人の言葉も冷たい響きを帯び、その内容はばっさりと。理紗を助ける意思がないことを示していた。
そんな二人の態度に息を詰め、縋るようにぴりあへ理紗は視線を移すが、ぴりあは縮み元のサイズにまで戻ったうざを抱き上げたまま、小さく俯むくだけだった。

「あ。君の親だったら、もしかしたら見離さずに助かる方法を探してくれるかもね。もう死んじゃってるけど」

綾瀬の発言に、理紗の脳裏に殺した両親の顔が浮かぶ。

「う…うる、さいっうるさいうるさいうるさい!やることなすこと一々口出しするあいつらが悪いんだ!んなこといいから助けろって言ってんだよ!!」

「…、来る、です…!」

理紗の精神に同調したように静かに侵食をしていた巨大花が大きく揺れ動く。
花弁の下からはより歪に醜悪な姿へと変貌した無数の触手が飛び出した。が。

「なっ…」

伸びた触手の群れを和人に一瞬で燃やし尽くされ、理紗が驚きに目を見開く。

「何驚いてんの。別に君だけが能力者ってわけじゃないんだよ」

言いながら、綾瀬は即座に再生をした触手を起こした鎌風によってズタズタに切り刻む。
ぴりあはうざを抱き抱えて容易に触手を避けて回る。


「…、もういいだろ」

永続的に再生する触手と暫く進展のない攻防をしていると
飽きた。と繰り返し再生を続ける触手をうんざりした様子で焼き払いながら、和人が不満げに呟いた。

「そうだね。ぴりあちゃん、ヤる?」

「…はい、です」

こくりと首を縦に上下させふわり、一歩足を踏みだすとぴりあは理紗に向かってうざを突き出す。

▽コマンダー選択
和人
綾瀬
ぴりあ

▽コマンド
たたかう
特殊能力
うざを
しんだふり
にげる

▽うざを(固有技選択)
おたま色の革命
おたま&フォーク
悶絶フィナーレ
黄昏晩餐会
ときめきハリケーン


「一撃で仕留める、です」

再度巨大化をしたうざをが手にしたおたまとフォークに、薄紫色の淡く柔らかな光が吸い込まれるように集まる。
刹那。勢い良く振り下ろしたおたまとフォークは巨大花を直撃し、破壊する。
更に、あまりの衝撃にぽこり床が抜けた。

「ありゃ、落ちちゃったね」

巨大花と理紗が一階へ落下した後の部屋には、想定外の床抜けに目を丸くする和人と綾瀬。そしてじぃっと穴の下を覗き込むぴりあとうざをの姿があった。

「はい。ですが…オーバーロードは無事止まったよう、です」

「自我がなくなる前に、殴るなり蹴るなり絞めるなりして気絶させれば止まるもんだからな」

そう、理紗を助ける方法がないというのはまったくの嘘。実際は能力の発動源泉である当該特異能力者を気絶させる等をして、力の流出を止めてしまえば必然的にオーバーロードは止まるのだ。
とはいえ、自我を失い力に取り込まれてしまった場合には源泉も何もあったものではない。
その為、自然消滅を待つか、同等又はそれ以上の威力を要する力で相殺させるしか止める方法はなくなる。
どちらにせよ、自我がなくなった時点で当該特異能力者が助かることはない。

「んふふ無知って時には大損だよね。切羽詰まって少しは懲りたかな」

「どうだか」

言葉とは裏腹に顔を見合わせて笑む和人と綾瀬は至極楽しそうだ。
その笑みからは意地の悪さが滲み出てきているようにすら見える。

「さて、と。奥の連中でも叩き起こすか」

「あ、私も行く。畑中さん元気かな」

「寝てんだろ」

「おお、そっか」

すっかり忘れていたのか。
綾瀬は軽い音をたて手を合わせた。

「…あの、どうして。あんな嘘、を?」

理紗との会話の最中。
助ける手はないとうそぶいた二人に合わせはしたものの、ぴりあにはその意図が全くわからなかった。
どうせ止めるつもりであったなら、わざわざ絶望と危機感を駆り立て焦燥させる必要はなかったように思う。
むしろ真実を述べておとなしくしていてもらったほうが無駄な労力の消費は押さえられた筈だ。
そんな思考を巡らせながら、奥の部屋へ向かう和人と綾瀬にぴりあが疑問を投げ掛ける。
なにをいきなりと振り返った二人は再び顔を見合わせた後、

「「あいつのせいで仕事増えたから」」

当たり前とばかりに声を揃えて言い切った。


そんな理由で面倒事を増やさないで下さい。
刑務官部隊のツートップは大人気ないことを知った。

ぴりあのレベルがあがった。

2006.11.11




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