飯塚理紗

「エ、エキセントリック」

「悪趣味」

「カオス」

三者三応。理紗の部屋に入った三人はリレー形式でリズムよく室内への第一印象を繋いだ。

「あんたら何様だよ」

仕掛けた襲撃をかわし部屋に入ってきたかと思えば随分な感想に、漫画を手にベッドに寝転んでいた理紗は顔を引きつらせた。
部屋は子供部屋にしては広く天井も高い。
室内には一人で寝るにしてはやや大きめのベッド、中央には真新しいアンティーク調のテーブル。
その上には菓子が山積みにされていた。
更に床には漫画やぬいぐるみ等が散乱している。

そして、
散らかっているとはいえ、子供部屋と思えば然程違和感のない室内に明らかな異の色を放つソレは、鮮やかな赤紫の花を壁や床等所々に咲かせ、かつ、蠢いていた。
先程襲ってきた触手もソレから伸びてきたものだ。

「何って他人様」

「悠長に答えてんな」

「あだっ」

余裕からなのか素なのか理紗に返答する綾瀬の後頭部を和人が叩く。

「んもう、せっかちなんだから。まあいいや、君。飯塚理紗だよね?」

「そーだよ。あんたらは?」

投げ掛けられた問いに素直に理紗が頷く。

「警察、です」

「へー。前来た奴らよりかっけぇじゃん」

「そりゃどうも。ところでその前来た奴ら。どうしたの?」

「奥で寝てるよ。すぐ殺してやろうかと思ったんだけどさー。いい殺り方が思い浮かばなくてとりあえず放置してんの」

理紗の視線の先には扉が一つ。
言われてみれば何だかいびきのような音が聞こえてくる気がしなくもない。
生きているのはこれ幸いではあるが。
生かされている理由が理由なだけに和人と綾瀬は微妙な表情を浮かべ、ぴりあは興味がないのかうざをの耳を引っ張っている。
うざをはとても幸せそうだ。

「…生きてるならいい、です。本題、ですが」

「おとなしく確保されるか、抵抗してここで死ぬか。どっちでも好きな方を選んでね」

人当たりのよさそうなにこやかな面持ちで選択を勧告しながら、綾瀬はすっと銃を理紗へ向けた。
初めて見る本物の銃に理紗は驚いたように目を見張るが、瞬く間に表情を一変させ場に不似合いな明るい声を上げる。

「すっげぇー!何それまじもん!?ちょうかっこいいじゃん!ほしい!ちょうだい!」

「やっだあげない」

「けち!…あ、そっか。別に奪っちまえばいいんだよね。さっきの選択肢、もう一つ増やしてやるよ。


あんたらブッ殺してここに残るってやつ!」

理紗がにいっと唇に孤を描いたと同時に部屋中に這っていた触手が一斉に三人に襲い掛かる。
直後、無駄のない動作で和人はぴりあのいる入り口側へと触手を軽く避ける。
ぴりあはその場を微動もせずただうざをの名を呼んだ。
その声に応えぴりあを護るようにうざをは自前の武器・おたまを右手、フォークを左手に構え、迫る触手を颯爽と片付けていく。

「をあ!?」

「あ?」

「……、綾瀬。何してる、です?」

緊迫した場に合わない間抜けな声に視線を移せば綾瀬がばったり転けていた。
足元には太い触手が一本。
凹んだところにくっきりと足跡が残っている。
咄嗟に和人とは逆手に触手を避けた綾瀬は、着地地点にあった今は潰れた触手にバランスを崩し転けたようだ。

「ぶっ…だ、だっさ!あんた本当に警察?!」

「う、うっさいな。警察だって時には転ぶこともあるんだよ」

思わぬ珍プレーにゲラゲラとかわいい顔に大口を空けて理紗が笑う。

「あー、おもしれぇ。でも邪魔だからとっとと死ねよ」

「…っ!」

拗ねたのか起き上がる素振りも見せずのんきに転がっていた綾瀬を一本の触手が直撃し、壁へ突き飛ばした。

「あはははは!よっえぇ!」

勢い良く壁に背を打ち付け、力なく床に伏した綾瀬を腰に手を当て見下ろしながら理紗は和人とぴりあの方へ顔を向ける。

「なんだよ、ガキ。言いたいことあんなら言えよ、うぜえな!」

「!」

そして、理紗とは対照的に眉間に眉を寄せ不機嫌極まりないぴりあを見るや否や
ぴりあをうざをもろとも背後から出した太い触手で窓目がけて強く叩き飛ばした。
強打した衝撃に耐え切れず窓はぴりあを部屋に留める事無く砕け散る。
ひょっこりと、壊れた窓枠から下を覗き込んだ理紗は生い茂った草の中から微かに見て取れるぴりあの姿に笑いをもらした。


「……、楽しいか?」

他人に危害を加えて。
和人の突然の問い掛けに、理紗は微かな戸惑いを見せる。

「楽しいよ、誰もアタシにかなわないんだもん」

しかし、直ぐにっこりと口元に可愛らしい笑みを浮かべて答えた。

「誰も、ね……。親を殺したのはなんでだ?」

「クソババアに親父?だってあいつらさー、やれ学校行けだ塾に行けだ偉そうに言いやがって。うぜぇからぶっ殺したの。助けて!ってバカみたいに必死になって叫んでたよ。すっげぇうけた!」

明るく楽しそうな理紗の笑い声が部屋中に響く。

そんな理由で。
普段から冷めた和人の目つきがより冷やかなものに変わる。

「そんなことより、お兄さんはどうすんの?すっげぇかっこいいしきれいだからさ、云う事聞くなら特別生かしておいてあげるよ?」

笑みを崩す事無く理紗は軽い足取りで和人との距離を詰め、見上げながらその頬へ片手を伸ばす。
見つめる視線に視線を絡め和人も応えるように笑みを作ると。

「そいつはどうも。誉め言葉は受け取っておくが…、生憎ガキには興味ねぇんだ」

返答に顔を歪めた理紗の手を緩く掴み、遠ざける。

「ああ、それと。相手の生死を確認するまでは気を抜かない方がいい」

続けて、忠告するかのように低く言葉を紡いだ。

「は…なに言って…、…!?」

理紗がその意味を問おうとした時、頭部に冷たい金属があたった。

「はーいチェックメイト。動いたら脳天ぶち抜いちゃうよ。さて、遺言はあるかな?ませガキ」

「うそっ、な、なんで普通に動いてんだよ。あんな強くぶっ叩いたのに…!」

「大丈夫。多分肋骨二本くらいはひび入ってるよ」

何が大丈夫なのか。
動揺を隠せないでいる理紗を先とは反対に見下ろしながら、綾瀬は空いている左手で自身の胸元を撫でた。

「ぴりあ。ノーロープバンジーなんて初めて、です」

綾瀬に続くかのように聞こえた声。
その声のした方へ辛うじて理紗が視線を向けると、二階の窓から地に叩きつけられたはずのぴりあが窓辺で衣服についた汚れを払っていた。外傷はどこにも見当たらない。
全く予期せぬ展開に理紗はただ驚愕に目を見開き
ありえない、と小さく呟きを落としカタカタと震えた。

「躊躇がないのはいいんだけどな」

「やっぱ子供だよねー。詰めも甘いし隙だらけ」

からかう様な調子で和人の言葉に綾瀬が続ける。

「…、その人。ぴりあが殺してもいい、ですか?」

聞きながら、共に窓から落下したため少量の汚れがついたうざををぴりあがぱふぱふと軽く叩いた。

「うん、いいよ」

「あんまバラすなよ。本人確認が面倒になる」

綾瀬と和人から了承を得たぴりあはそっと理紗へ手にしたうざをを向けて床に置いた。
直後、軽く抱き抱えられる程度の大きさしかなかったうざをが見る見る天井ぎりぎりまでに巨大化し理紗を見下ろす。
その手にはうざをの武器であるおたまとフォークがしっかりと握られている。


「い、いやっやだ…っやだ、やだやだやだ来るなよ!死にたくない、死にたくないぃぃいい!!」

「っわ!危な…!」

着実に近づく死の恐怖に一心不乱に大きな金切り声をあげた理紗の足元から次々と触手が飛び出す。
そのまま一点に収縮した触手の群れは金色に煌めく花粉を舞散らせながら、血のように赤く鮮やかな花びらを広げ大きく花開いた。

2006.11.11




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