親殺し

開かれた玄関からきょろきょろと物珍しそうに、ぴりあが理紗の籠もる家の中を見渡した。
家の中を満たすのは夕刻の薄紅と静寂。

「確かガキの部屋は二階だったな」

静かに紡がれた和人の言葉に、ぴりあが肯定を示すようこくり、と頷く。
階段以外に電気が付いていないところを見ると、自室にでも籠もっているのだろう。そう安易に予測を立てた三人は理紗との接触は後回しに、先ず行方知れずになった警察官がいないか一通り一階の捜索にあたった。
しかし、人の気配はなく特に変わった様子も見られない。

「和人、二階。先行くよ」

「ぴりあも行き、ます」

外にいる佐山に簡単に現状報告をしている和人に一言告げると、綾瀬はすたすたと階段を登る。
その後をぴりあが続き、その又後を慌てた様子でうざをが続いていく。
どうやら持ち疲れたのか手放されたようだ。


「あ、見て見て佐山さんが見えるよ」

「…暇そう、です」

二階へ上ってすぐにある廊下の窓から丁度玄関前が見渡せた。玄関に車を停めている佐山その他捜査官も例外なく視界に入る。
事実上、捜査の全権が特殊警察に託されやることが特に見つからないのか
佐山は遠めからも見える程の大きな欠伸をしていた。

「んん?あれ、佐山さんてばなんか生えぎわやばくない?」

ふいに吹いた風に揺れる佐山の髪に綾瀬は違和感を覚え首を傾げた。

「やばいも何も。あいつヅラだろ」

「うえっまじで!?」

「まだ、お若いのに…」

報告を終え二階へ来た和人が繋いださり気ない回答に綾瀬は驚きぴりあは哀れむ。

いや、信じんなよ。

冗談混じりに言ってみたはいいものの、疑う様子のない二人に和人がツッこむ。
が、対象が佐山なので特に訂正することはせず近場から再び部屋を調べることにした。




小さめのダブルベッドが置かれた一見小綺麗な寝室。
理紗の部屋を除けば、確認を終えていない最後の部屋だ。

「ここで殺されてたのって、父親の方だっけ?」

そこで見つけた赤く薄汚れたシーツを見つめながら、綾瀬が呟きを落とした。
それを、ああ。と簡素な肯定で和人が拾いあげる。

「…、母親。は、助けを呼びに外の通りに出たところを背中から包丁でひと突き。更に倒れたところを滅多刺し、に、されたそうです」

その現場を目撃した付近の人間が慌てて通報するが、理紗は直ぐにその場を去り警察と救急車が着く頃には見事行方を暗ましていた。

「うーん。何で殺しちゃうかなあ」

見つめる瞳は遠く。
そっとシーツに触れたまま動かない綾瀬を横目に和人はまたか。と小さく息を吐く。
大抵の物事に対し飄々として笑みを張り付けている綾瀬が、親殺しに係る件に対しては一時的にその笑みを剥がすことがある。

綾瀬は僅か五歳という若さで両親を失った。
検察官の母に警察官の父。職業柄、綾瀬と親が共に過ごす時間は少なかったが
共に過ごす時は優しくそして厳しく、深い愛情と叱咤激励に育まれそれなりに幸福であったそうだ。
その幸せを、血の繋がった親をよりによって殺害されるという残酷な形で無くした綾瀬にとって、親はどんなに欲しても二度と手に入ることのない存在となっていた。

そのことを視野に入れれば仕方がないようにも思えるのだが。
物心ついたときには既に親という存在がなかった和人にはいまいち心情を察するに困る。
掛ける言葉がないのだ。
あったところで掛ける気等毛頭ないが。

「……腹を痛めて産んだ子供を平然と手に掛ける親もいんだ。その逆があっても、別におかしくはねぇだろ」

言って、和人は部屋を出ようと歩きだした。

「そうだね。やっぱ価値観の違いってやつかな」

考え込むように綾瀬は手を顎へあて、追うように寝室の入り口へ向う。
そんな二人を既に部屋をでていたぴりあは単独行動を禁じられ暇なのか、急かすようにドアの隙間からじいと視線を送っていた。
ただでさえ小柄なぴりあは、和人や綾瀬と比べると余計にサイズが小さく見える。そのことも手伝ってか、ドアに隠れるように顔を出す姿はどこか座敷わらしのようだ。
その様子に、ぴりあを愛して止まないうざをは廊下でばたばたと悶絶している。
主人とは対照的にその様はぶっちゃけキモい。と言うか気味が悪い。
見るに見兼ねた和人がぽいっと外へ放り投げるのも時間の問題だった。

結局、どの部屋を捜索しても行方を暗ました捜査官を見つけることは出来なかった。
理紗の部屋を除いて。

「それじゃ、ご対面といきますか」

腰に手をあて綾瀬の口から出た声は揚々として緊張感の欠けらもない。
それが当然のように和人が理紗の部屋のドアノブに手を掛けた。

「……っ!?」

「和、人……!」

瞬間。
見計らっていたかのように扉を突き破り勢い良く三本の触手が和人を襲う。
しかし、間髪のところで能力を発動し和人は触手を焼き払った。

「失礼しますよっ、と」

合わせて、綾瀬は装備していた刀で再び襲い来る触手を風穴の空いたドアもろとも斬り刻み部屋への進路を拓き、部屋へ入る。
ぴりあは何をするでもなく綾瀬と和人の後をついていった。

2006.11.11




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