桂小五郎・大久保利通他〜幕末〜  | ナノ


水無月の晦日。大祓が行われる。だいたいどこの神社も水無月と師走の晦日に執り行われる。
水無月は夏越の大祓とも言われ、茅の輪くぐりなども行われる。
半年間の罪や穢れを祓い清めて、これからの半年を無病息災に過ごせるよう祈る。

晋作のおせっかいのおかげで小娘さんと並んで歩くことができる。
しかし、これまで長州藩の為とはいえ自分がしてきたことを思い返すとこの純真無垢な小娘さんの横に自分が一緒にいてよいのだろうか。
そんなことが頭をよぎる。
しかし、手にしてしまったこのぬくもりは決して離したくはない。誰にも渡したくはない。


地元の人々から八坂さんと親しみをこめて呼ばれる八坂神社は、藩邸からもっとも近く有名な神社の一つ。
祇園にあることもあり多くの人が訪れる。
大きな朱塗りの門をくぐると、すべての穢れを祓ってもらう覚悟を決める。

二人並び手水舎で、手と口を清める。着物の袂が濡れないようにする所作もまたかわいらしく、微笑ましい。なにをする所作もかわいらしく思え、全てが愛おしく思う。
二人並んで、本殿に参拝をすませると多くの人が並んでいる列に混じる。
神職が祝詞をあげる中、茅の輪をくぐる。不安げな表情を見せる小娘さんを伴いながら二人して輪をくぐる。
1回、2回、3回…
これで、これまでの罪や穢れは祓われただろうか?
信心だけのことで、なんの根拠もない詮無いことではあるが、そうしないと小娘さんにふれてはいけないような気がして仕方がなかった。

社務所の横を通ると、小娘さんが私にくれたものと同じお守りが並んでいる。赤色と紫色の2色のお守り。
私の着物の色にあうと紫色を選んでくれた。その言葉を思い出し、再び心が温かくなる。
赤色のお守り。
今度は私が買おう。

「小娘さん、これ・・・この前のお礼・・・」
すっと小娘さんの前に差し出してみる。

「桂さんとおそろいなんですね。うれしい!!」

屈託のない笑顔で私に微笑みかける。
嬉しいのは私のほうだよ。
こうして横にいてくれるだけでほんとうに心が満ち足りる。

祝詞を聞き、茅の輪をくぐり、穢れを祓ったつもりだが、この純真向くな小娘さんのそばに私がいることを神はお許しになるだろうか。
そうであってほしいと自分に言い聞かせるようにして山門を後にした。


藩邸が近づいたところで、大きな鴨川ではなくその筋違いを流れる高瀬川沿いの道を歩くことにした。
都の喧騒から離れ、人の往来もまばらになり、水面のせせらぎと緑柳が涼しさを演出する。
そんな中二人で歩くシアワセをかみ締める。

左の掌をすっと差し出せば、そこには暖かな感触がすぐに伝わってくる。
私の手を握ってくれたのだと。そのまま私も小娘さんの手を握り返す。
この手が私を選んでくれたのだと。決して離さないという思いでその小さな手を握り返す。
藩邸までのあと少しの道のり。
もっと遠ければいいのにと柄にもないことを思う。
人に見られては、剣を握らずして女子の手を握るのかと揶揄されそうではあるがそれさえも私の心を遮ることはできなかった。




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