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布団が、一組しかなかったから、仕方なかったんだ。
等級の低い遮光カーテンからは青白い月明かりが漏れている。オレはその光に背を向け、部屋の中央に敷かれた薄い布団に横たわっていた。壁にかかった時計の秒針の動く音が規則正しく、やけにうるさく響いているこの部屋で、今、オレの真横に寝転ぶのは一つ年下の幼馴染の名前だった。


「ユキくんの部屋、眩しいね」


オレらが一緒の布団に入ってから40分、寝たか起きてるか全く様子のわからなかった幼馴染がぽつりと言った。「布団も狭いし」二言目にも文句をつけられ、オレは小声で反論した。「お前が押しかけて来たんだろ、文句があるならちゃんと帰れ」姉妹喧嘩をしたからという理由で、真夜中に突然やってきた名前。オレの部屋の窓は丁度隣に住む人見家の名前の部屋と向かい合っていて、こいつは暇になるとすぐそこからオレを呼び出す。こちらの事情なんかは基本的に無視だ。テスト前に必死で勉強している時も、ボーダーの仕事でヘトヘトになって帰ってきた時も、それから…


「ねーユキくん、開けてよ窓」


部屋を完全に暗くして、眠っているのを装っていたというのに。手元のスマホには表示名を変えてこっそりブックマークしている『そういうサイト』が表示されている。忙しくて最近時間がとれずにいたから、丁度家族も寝静まった今から『しよう』と思った所だった。シャットダウンしていた自分だけの空間に響いた声に、オレは驚いて一瞬でスマホの画面を消した。声のした方に慌てて視線を向ければカーテンは相変わらず閉まったままで、ぼんやりと向こう側の家から身を乗り出す名前のシルエットが見えるだけだった。ドクドクと破裂しそうなほど心臓が脈打っているのを感じる。良かった、バレずにすんだ。ていうか、このタイミングで…あまりにもドンピシャで心臓に悪い。窓の外では「起きてよ」と、今にも泣きそうな甘え声を出す名前の影がゆらゆらしていた。


「えへ、お邪魔します」


ツルツルの光沢のあるピンクのパジャマを着た名前が、オレの部屋にやってきた。「…あのなぁ、いくら幼馴染とはいえ、普通こんな時間に人ん家に来るのは非常識だぞ」小さく正座をしている名前に向かってオレは腕組みをしながら諭した。「いいな、わかったら部屋に戻れ」「やだ」名前は子どもみたいに頬を膨らませて言った。


「今戻ったらお姉ちゃんと一緒に寝なきゃいけないもん。今日は絶対ぜーったい引かないんだから」
「あのなぁ、それはお前の家の都合だろ?第一、オレの部屋だってお前の寝る場所はない」
「あるじゃん」


名前は床に敷いてあった布団をぱふぱふと叩いて、にっこり笑った。いや、だからこれはオレの布団であって、お前に譲ってやる気は…「一緒に寝よ」「は、」オレは驚いて、布団と名前を交互に見た。


「大丈夫だよぉ、ベットじゃないから落ちたりしないし、私友達と寝た事あるけど案外寝れるよ」
「…や、そういうことじゃないだろ」
「いいからいいから」


静止する声は完全にスルーして、名前は本当にオレの布団に潜り込んだ。こいつ、正気か?だっていくら幼馴染とはいえ、高校生にもなった男と一緒に寝るなんて普通ありえない。万が一、オレじゃなくて誰か別の男だったら…そう、そういう間違いだって起こるかもしれないし、このシチュエーションを見た人が10人いたら、10人が『そうなっても仕方がない状況』だと言うだろう。そのぐらい、この年齢の男と一晩過ごすことが危険な行為だってこと、名前は全くわかってないみたいだった。


「ユキくん寝ないの?」
「………いや、本当に帰れよ。オレの寝るとこないし」
「だから一緒に寝よって」


黒くて丸い瞳が、オレを見上げる。こんなに色々考えているオレの方を『可笑しな人』と言うかのように。時計を見ると既に夜中の0時を越えていた。明日は土曜日、朝から基地に行かなきゃいけないから…そうだ、たった数時間の話だ。適当に横になって、何も考えずに寝て過ごして、手元が明るくなって安全な朝早くにこいつを家に帰してしまえば多分、大丈夫だ。家族が勝手にオレの部屋を開けに来ることは確実にないし、真っ暗で危険な窓渡りをまたさせる訳にもいかない。あれこれ考えたけど、どれも今置かれている状況をなんとか正当化するための言い訳だった。オレは小さく深呼吸をし、意を消して名前がすっぽり収まっている布団を捲った。


* * *


「ねぇ今何時?」


相変わらず名前に背を向けたままのオレは、壁掛け時計の時間を読み上げた。「1時半」「え?なに?」耳元で布団の擦れる音が聞こえて、変な感じがする。声のかかり方からして、おそらく名前は上体をやや起こしてオレを見下ろしているだろう。…落ち着かない。ちっとも眠れるような状態じゃなかった。


「時計見ろよ、1時半だって言っ…」


しつこく聞いてくる名前に痺れを切らし、オレは枕元にあったスマホを手にとった。時計の表示されている待ち受け画面を見せてやろうと思ったからだ。本体側面のスイッチを押せば、瞬間的に薄ぼんやりした月明かりで満たされた室内は閃光を受けたように光出す。…と、その瞬間だった。かちゃり、鍵を開けるような音がスマホから聞こえた。指紋認証で待ち受けを飛び越え開いたのは、記憶に新しい動画の再生画面だった。


『あっダメ…!』


しんとした部屋にそこそこの音量で響いた喘ぎ声。「!?うわ!!!」オレは驚いて跳ね起き、不埒な音声を出し続けるスマホを着ていたTシャツの裾でぐるんぐるんに包んだ。まずいまずいまずいそうだった、慌ててさっき画面を消したから…!名前が来る直前の記憶が蘇り、そこでようやく『スマホの画面を消す』という動作が必要な事を思い出した。こんなに焦ったことあるかってぐらい慌てながら、オレはなんとか手探りでTシャツの中で漏れ出続ける音声を消した。しーんと静まり返る室内。肩で深呼吸するけど、ドッドッと心臓は爆音で鳴り響いた。真横にいる名前は完全に起き上がってこちらを凝視している。急に戻ってきた静寂が、気まずさをより一層酷くした。


「………なんか、凄い声したね」


舌ったらずの幼い声でそう言われ、オレの顔は火がついたように熱くなった。さすがに名前も今のが何だか気付いているはず、誤魔化しようがない。恥ずかしすぎて、返す言葉が見つからなくて、オレは背を丸めて下を向いたまま座った姿勢から動くことが出来なかった。「………眠くなってきたかも」こんなマイペースな幼馴染が、自分に気を遣って喋っている。いたたまれないとはこういう事を言うのだろう。「……ユキくんも寝たら?」「……寝るよ」「うん」名前はしずしずと布団に横になり、今度は窓側を向くような形で布団を被った。


* * *


「…あのさぁ、ユキくん」


あれから、また少し時間が経った。完全に目が冴えてしまったオレは羞恥心と後悔に押し潰されそうになっていて、真横に寝転ぶ名前に背を向けてひたすら朝になるのを待っていた。「…何だよ」不機嫌な声色になってしまった自分が腹立たしい。「えっと…ね、」後ろ側にいる名前はオレを呼んだくせに、何か言い淀んでるみたいでなかなか本題を出してこようとしなかった。ところがその後。慰めとかフォローとかもういいから、無かったことにして欲しいと思うオレに、名前はとんでもない質問をふっかけてきたのだ。


「今、もしかしてムラムラしてるの?」
「ッは?!」


なんて直接的な言葉だろうか。ようやく収まってきていた熱がぶり返して、また一気に身体が熱くなった。


「だって…よく考えたら今日、やたらと帰れって言ってたなぁって思って…」
「いや、だからそれは普通に」
「もしかして私が来ちゃったら、その…できなくなっちゃうのが嫌だったのかなーって思ったら…悪いことしちゃったかな…みたいな……」


勢いよく質問してきたくせに、並べられた理由はふんわりふんわり要所を隠してくる。もうやめろよ本当に。「ちが…違うから、もう」朝まで黙っていてくれと言おうとした時だった。


「……私、手伝おっか…?」


ワントーン小さくなった声だったけど、たしかに聞こえた、信じられない台詞が。手伝う?何を言ってるんだ名前は?混乱しているうち、半袖から二の腕に薄いサテンの生地のひんやりした感触がまとわりついた。次いで胴体にゆっくりと腕を絡められ、背中にふにゃりと柔らかな丸みが押しつけられる。何やってるんだコイツ、「おい、」静止する気があったのか、戸惑って咄嗟に出た声だったのかはわからなかった。年下の女子のハグなんて、男の力でどうとでもなる筈なのに、オレはそれをしなかったから。「ユキくん、我慢するとつらいでしょ。可哀想…」するりするりと辿々しく鎖骨を撫でられる。まるで漫画の中のようなシチュエーションに、脳が沸きたつような感覚になった。


「やめろよ、もうお前変」


口ではそう言っておきながらも、名前の手にあてがった掌には到底引き剥がす力など入っていない。嫌でも期待を持ち始めるオレの身体。これから、コイツ一体…どうする気なんだろう。首を傾けて後ろ側を伺えば、瞳を潤ませ唇を噛んだ名前と目があった。こんな大胆なことを自分からしてきたくせに、緊張したような表情をしている名前。辛うじて抵抗の言葉を吐いていた理性は、その瞬間綺麗さっぱりなくなってしまった。


「ほんと…どうすんだよ……」


部屋のドア側を見ていた体制を変え、名前の方に向き直る。「…わかんない、教えて」恥ずかしそうに目を逸らした名前に無性にドキドキして、オレは布団の中に忍ばせていた左手を、恐る恐る名前の胸の上に置いた。


指先に伝わるツルツルした触り心地の良い生地と、ひたすらに柔らかい未知の感触。正直想像以上だった。何の生き物にも、食べ物にも例え難いふわふわにすっかり魅了され、確かめるように何度も触れる。その度、喉を鳴らす。距離が縮まったからかよく聴こえるようになった名前の少し苦しそうな息遣いが、このありえないシチュエーションとリンクして、オレは余計に興奮した。


「…これ、いいの?」
「う、ん…」
「…………」


念のため確認しておこうと話しかけたら、名前は吐息混じりに返事した。胸から視線を顔に移すと、節目がちになって唇を軽く噛んでいる。煽っている、と思った。オレは胸を触っていた手をそっと名前の服の中に滑らせて、今度は直接触れた。薄い布切れ一枚があるかないかの違いなのに、温かい皮膚の滑らかな感触にあっという間に夢中になった。先程よりも揉みしだく手の動きは速さを増して、大胆になっていく。「んん…」時折、名前の鼻から抜けるような小さな声が漏れた。もっと、聴いてみたい。胸の一番先にある部分を摘むようにすると、予想の数倍も可愛い声で名前は喘いだ。咄嗟に口元を隠して黙る姿がまた可愛くて、オレは当初の戸惑いなどすっかり忘れて名前の身体を触り続けた。


「、ちょ」


そのうち名前は受け身だった姿勢から一転、片手を伸ばしてオレの下腹部にそっと触れた。驚いて胸に伸びている手が止まる。それを見計らったかのように、名前の手は更に下へ下へと落ちていき、遂にたどり着いた。触れられる側になって初めてわかった、このおかしなシチュエーションの背徳感。幼馴染の女子に、布団の中で、触られていて、オレはその子の裸を触っている。彼女でもなんでもない、幼馴染と。それが余計に興奮を煽った。指先で弧を描くように、服の上から先をなぞられ、そのゆるい刺激ですら気持ちよくておかしくなりそうだった。オレは思い出したようにまた名前の胸を触る手を動かす。ゆっくり、ゆっくり、馴染ませるように。オレたちは薄暗い部屋で互いの身体を貪り続けた。


「………それだとイけないから、」


触り合いを始めて大分経った頃、室温がグッと上がったように暑くなってきて、俺は被っていた布団を捲って上体を起こした。もうパジャマの前ボタンを全て開けられ、グズグズになった人に見せられないような姿の名前も、一緒になって起き上がる。ここまで来てもやはりちょっとどうするか迷った。だけど結局、目の前の欲には抗えなくて、オレは寝巻き代わりに履いていたジャージを脱ぎ、そのまま下着まで下ろした。名前はその様子をじっと黙って見ていて、隠れていた部分が見えると珍しそうに目を丸くした。「…触って」まじまじと見つめられ、恥ずかしくてオレはすぐに名前にそう言った。相変わらず興奮はしていたけど、流石にこんな姿を見せることには緊張もあった。それを悟られたくなくてすぐにそう指示したのだけれど、いざ名前の手が触れると強気のままではいられなかった。「、っ」全然違う。自分でするのと、人にされるの。いつもの要領と違う不器用な手つきは、予想もしない刺激を与えてくるから、衝撃が凄くて思わず手に力が入った。握って包んで、上下に動かすその運動で、こんなにも気持ちいいと思ったのは初めてだった。


「ユキくん、気持ちい…?」
「、うん…」


正直、もう直ぐにイってしまいそうだ。けれどこの快感をすぐに終わりにしてしまうのも惜しい。オレは襲ってくる快感に耐えながらも、横に座っている名前のパジャマのズボンの隙間から右手を入れた。レースのついた下着の脇から指を捻じ込めば、そこは触れた瞬間にわかるほどとろとろの液体で溢れていた。


「すごい濡れてる…」


思わず口にすると名前は恥ずかしそうに頬を膨らませて怒った。「ユキくんのえっち」こんな状況に持ち込んでおいて、どの口が言うんだ。とは言わない代わりに、オレはその濡れた部分をなぞって名前の一番良さそうな場所を探した。上から、下まで、ゆっくり筋を撫でると途中ピクリと身体が反応する様子を見て確信した。


「…ここだろ?」
「んんッ!」


服の中の様子は見えないし、動画で得た知識でしかないけれど、確かこの辺りに痺れるような性感帯があると知っていたから触って見たら、どうやら当たりだったらしい。先程の胸の刺激とは比べ物にならないほど身体を震わせ、絶えず小さく声を漏らし続ける名前の姿は、オレが人生で見た中で最も刺激的な光景だった。まずいぞ、名前が凄く可愛い、どうしようか。そんな事を考えてる中、名前も負けじと手を動かし続けてくる。下半身への絶え間ない刺激と、名前の色っぽい表情と、声。限界がもう限りなく近くなっていた。


「ねぇ ユキくん。私のこと、」


短くきれる喘ぎの中で、途切れ途切れに名前は言った。「うん…なに、?」オレももう余裕がなくて必死だった。名前は切なげな目でオレを見た。このままだとキスしてしまいそうなぐらい近い。…したい。


「おねえちゃんより…好き?」


何故ここで、摩子さんの名前を出してくるのか。脈絡がわからず困りながらも触り続けると、名前は一層高く声を出した。「ね…好き?私は、ユキくんのこと…」まさか、この幼馴染は、オレの事を…?次に言われるであろう台詞を想像し、心臓はいやと言うほど心拍数を上げた。オレは、名前と二人きりで夜中にこんな事をして、最初は危なっかしい奴だと思ったりしたけど、喘ぐ名前をただ、可愛いと思ってしまっていて……つまりそれはどういう事なんだ?オレは名前が好きなのか?頭の中でぐちゃぐちゃに考えてるうち、本格的に我慢出来なくなってきた。


「待って出そう…!」


ティッシュを取ろうと静止した言葉だったのに、名前はラストスパートをかけるかのように手の動きを速めてきた。「好きだよ、ユキくん」イく直前にそう言われ、オレはもう我慢できなくなった。名前の肩に手を置いて引き寄せ、思わず唇を重ねた。


* * *


「…ね、チュウしたってことは私の事好きって事?」


結局ティッシュが間に合わず、酷い状態になった布団を片付けながら名前は嬉しそうにそう聴いてきた。「……えっと」オレはどう返そうか、迷っていた。名前のことは、今日まではただの幼馴染で、妹みたいな存在だと思ってた。だけど、こんなに色々しといてそれはもう今更言えないし、でも、最中に名前に感じたドキドキした気持ちとか、堪らなく愛しくなる瞬間とか、それが幻かと言われると…それも違うような気もする。だからって戻れるか?最低じゃないか。全ての汚れを拭き取り終え、ティッシュをゴミ箱に捨てた時、綺麗にパジャマを着直した名前はオレに向かって言った。


「ねぇユキくん、この人と付き合うか迷っちゃうなって時はね、想像するんだって」
「想像?」
「そう。もしこの人が、自分と付き合わないで…別の人のものになっちゃったら?って。手を繋いだり、キスしたり、それを別の誰かとするのをどう思うかって考えるの」


どう?名前はまたいつもの甘えた表情でオレを見た。オレは言われた通りに想像をする。今オレがしたような事を、名前が別の誰かと…。脳内にフラッシュバックする官能的な光景に、オレはまた煽られていく。そしてその最後に、それがもし自分相手じゃなかったら、と考えた時…。


「………嫌、かも」


思ったよりもシンプルに、答えは出た。名前は嬉しそうに笑って「本当?!」少し大きな声を出したのでオレは慌てて人差し指を口に当て、しーって静かにするようジェスチャーした。小さくごめん、と言った後、名前は嬉しそうにオレに抱きついてきた。ふわふわの丸い二つの塊が、またオレの体に押し付けられる、今度は無意識に。「お前…でも本当、あんまり男を煽るなよ」「なにが?」名前はキョトンとした顔でオレをみた。あ、大変だ。何もしてない時でも、凄く可愛く見えてきた。思わず抱きしめたい衝動に駆られて、今叱ったばかりなのにオレも同じように名前を腕の中にしまった。多分顔は赤くなってるから、見えないように名前を胸に閉じ込める。名前は苦しそうに、でも嬉しそうに腕の中で笑った。


「じゃあユキくん…今日の続きもいつかしようね」


言ったそばから煽られた。もう制御する建前のない関係になってしまったオレたち。いつかなんて悠長なこと、言ってられないかもしれないと思った。



今夜はねむれない!





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