めろめろパンチ | ナノ






変な噂が立ってしまったから朝から気分は最悪で、火消しの為私は二度とあの人と会わないようにしようと思った。むしろあえて別の人を好きになって、あれはやっぱり嘘だったのかくらいに思って欲しい。そんなことばっか考えていたら、家庭科の授業のさいごで結構な火傷をした。休み時間になって急いで保健室に駆け込めば、そこには私を悩ませた噂の人が丁度いた。


「怪我?今、先生いないんだ。俺で良ければ一応対応できるよ」


…出会ってしまった。
何故この人がここに?その答えを出すかのように彼の腕には赤十字の記された委員会の腕章が付けられていた。


「…別にいいです、ただの火傷だし、自分で」


こんな場所で二人でいるところをまた誰かに見られたら困るので、冷却シートだけ貰おうと足早に薬棚へ近づいた。よくあるパッケージから使いかけの小さなシートを一枚貰い、貼ろうとしたところ横からスッと手が出てきて、「待って、火傷だって?」それを静止した。驚いてその手の先を見上げると真剣な顔の先輩がいて、何を言われるのか全く検討がつかずつい、まじまじと見てしまった。


「そのまま貼ると薬品が傷についてよくないんだ。ガーゼとか、絆創膏の上から冷やすのがいいよ」


そう言って先輩はガーゼとハサミを持ってきた。「この…腕?水で冷やしたりは?」咄嗟に頷いた私を見てから、先輩は火傷の赤くなった膨らみの大きさを見て、慣れた手付きでガーゼを切った。あまりにも手際良く手当てされていく私の左手。仕上がりは先生がやってくれるのと変わらないくらい綺麗で、クルクルと手首を返して眺めてしまった。


「これでいいだろう。綺麗に治るといいけど」


そう言って先輩は優しげに微笑んだ。手当された後で実に単純な話だと思うけど、思ったよりも仕事の出来る先輩が、ちょっと意外だった。「…ありがとうございます」入室時のつっけんどんな態度が気がかりで素直にお礼は言えなかったけど。チラリと目線を上げて先輩を見ると、先輩は何かに気づいたような顔をした。「あれ?君、昨日の…!?」まさか、気付かれていなかったなんて。何度も顔を見合わせるタイミングがあった筈なのにと呆れて思わず溜息が出た。


「…昨日ぐらい近付かないと見えませんか?」

「いや、ごめんごめん。そうじゃなくて…こう、なんというか…そう、雰囲気が!ちょっと変わったから気付かなくてさ」


取り繕うように乾いた笑いを洩らす先輩。
(…雰囲気じゃなくて、態度でしょ)
もう媚びを売る必要もないかと思い、私は先輩の目の前の丸イスに腰掛け、脚を組んで先輩を見た。


「私、変な噂流されて気分わるいんです」
「噂?」
「先輩が、私をフったって」


恐らく先輩は何も知らずにいたのであろうことは、驚きの反応から見て明らかだった。「昨日の別れ際だけ見た誰かに言いふらされたみたいですよ。だからこれ以上、本当は先輩と仲良くしたくなくって」付き合ってると噂されるのは構わないけど、自分の片想いだと思われるのが嫌だった。なんと自分勝手な言い分だと我ながら思うし、多分先輩も無茶苦茶だと感じているであろう事は表情からわかった。
先輩は困ったように「じゃあ、俺も何か聞かれたら、誤解だと言っておくよ」と返事をしてくれた。そうしてください、そう言って立ち上がり戸に手をかけた。













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