めろめろパンチ | ナノ






「この人、新しい彼氏。ねー?」
「ね、ねー…」


今私が腕を組んで寄り添っている人は、彼氏でも何でもない。しつこく連絡してくる元彼を蹴散らすための、言わば『ボランティア』だ。私と腕を組み甘ったるい相槌を交わすフェイクの恋人に、目の前に立つ元彼はギリギリと歯を食い締めて、何も言えずに震えていた。「っんで…コイツかよ…」適当に選んだ人材は、私は全く知らない初見の人だったのだけど、元彼には諦めるしか無いと思わせるような何らかの効果があった。
あぁ、よかった。これで、綺麗さっぱりお別れ出来そうだ。


「ありがとうございました。助かっちゃいました、あの人しつこくって」


廊下でたまたま出会った、真面目そうな、やさしそーな先輩を捕まえて、協力してもらった。3分だけ私の彼氏になってくれませんか?って。見るからに女慣れしてなさそうな先輩は照れくさそうに「俺は大丈夫だけど」と言った後、何か言いたそうにもごもごしていた。「何ですか?」学校一の美女だと噂される私の前では、こういうのはよくある態度。意識的にニコリと笑えば、先輩は真剣に私の身を案じてくれた。


「けど、君の方が困るんじゃない?その…本当に付き合ってる、って思われちゃったら…」


頬を染めて真面目に心配する先輩が可笑しくて、笑いそうになった。「いいんです、そう思われて。追っ払う為にやったんですから」それに、慣れてるんです、こういうの。…とは言わなかった。とびきりの笑顔で答えれば、先輩は何か言いたげに口を開いて、辞めた。「……そっか。そういうもの?」出てきたのは新しい文化に歩み寄ろうとするお父さんみたいな台詞だった。


「でも、先輩は本物のカノジョ…いるんですか?」


こう言えば、大抵の男は狼狽える。もしかしてイケるんじゃないかって、錯覚するらしい。わたしはその、いけるんじゃないかって思ってしまうお馬鹿な男子の表情がおかしくて、面白くて、持ち前の美貌を最大限活かして、わずか14年ほどの人生で既に何人ものハートを撃ち落としてきた。もはや趣味というか、副業である。
ところが、目の前の先輩は自ら一歩下がって私の詰めた距離を簡単に引き離した。「えっ、いやあ俺は大丈夫だよ、気にしないで」思いの外あっさりと、そしてどちらとも読めない不思議な回答をしてきた。


「それじゃあ、もう平気かな?俺、部活あるんだ。ごめんね」


眉尻を下げた申し訳なさそうな笑顔を残し、先輩は行ってしまったから驚いた。こんな風に、廊下に一人残されたり、私の質問に答えなかったりする人は、初めてだった、かもしれない。








「名前って大石先輩狙ってたの?」


翌朝、学校に来るなり友達に席を囲まれた。「誰?それ」聞いた事のない名前に眉を寄せると、テニス部の先輩だよと友達の一人が言った。テニス部は成績が良くて有名で、よく朝礼とかでも表彰されてたりするけれど、部活漬けの人達に興味なんてないし、二、三人ほど人気の先輩の名前を聞いたことがある程度。その中に今言われた『大石先輩』の名はなく、私は本当に思い当たる節がなかった。


「昨日…その、大石先輩に名前が振られてたって…朝から噂聞いたけど」


友達の言葉を聞き、ようやく昨日の真面目先輩の顔が浮かんだ。あの人が大石先輩なのか。そして、次いで耳を疑った。


「え?私が?振られた?」
「だって…ごめんねって言われてたんでしょ?そう言う事でしょ…?」


言いにくそうにする友達に私は驚いた。そして即座に否定した。何で私があんな、真面目そうで変な頭で見るからに頼りない人を狙わなければならないのか。私だって好きになる人はそれなりの基準をもって選んでいるし、そこにプライドだって一応あった。冴えない人を好きになることは、それに反すること。逆ならわかる。けどその逆はない!












「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -