まるさんかくストロベリー | ナノ






勝手に学校まで行って、こっそり練習を覗いていたことがバレて、咄嗟に逃げてきてしまった。逃げたらもう確実に『人違いですよ』は使えなくなる。あんなに会いに行きたかったのに今は恥ずかしくて会わせる顔がなくて、私は今朝二本も早い電車に乗って通学した。後悔はしていたんだけど、授業中や、電車に揺られている時には、昨日の丸井くんのスーパープレイの数々がフラッシュバックして、それがあまりにかっこよくて、私はため息をつくのだった。


授業が終わって高等部を後にしたら、先に教室を出ていったはずのクラスの子達が門の方から逆戻りして歩いてきた。心なしか楽しそうな彼女らは私の姿を見るなり、興奮した様子で話しかけてくる。「門の前に、すごいイケメンが待ってる」それは、この閉鎖された女子校においては結構重大なニュースだった。門で待っているということは、誰かうちの学校の生徒の中にその人の恋人がいるということで、それが『すごいイケメン』なのであれば、一体誰の恋人なのか、明日には噂になっているだろう。私は『すごいイケメン』という言葉を聞いてすぐ、丸井くんの顔が浮かんだ。誰がみても目を奪われる大きな目がチャームポイントの彼。今の私が、丸井くん以外の人を見て、果たしてイケメンだと思えるだろうかと怪しくなるくらいには、私の頭は丸井くん一色に染まっていた。


「あ、きたきた」


とにかく行ってみて、と言われてそのまま歩いていけば、門の守衛室の壁に体重を預けて立っている赤髪が見えて、どきりとした。次いで深いグリーンがかったブレザー、スラックス、まつ毛の長い横顔を見て、初見で感じた衝撃が間違いじゃなかったのだと分かった瞬間、その人はスマホから視線を外してこちらを見た。「良かった、もしかして帰ってんじゃねーかと思った」ポケットに手を入れたまま、丸井くんは風船ガムを噛んで首を傾げた。


「あの…ど、どうしてここに」
「ん?ああいや、お前に用があって」
「私に…?」
「そ」


校内でも珍しい他校生の待ち伏せということもあり、門を出て行く人達みんなが私と丸井くんのやりとりを眺めて歩いて行く。私も混乱していた。何故、丸井くんが私の学校まで来ていて、しかも私に用があるのだろう。「とりあえずここじゃ目立つし、場所変えね?」そう言うと丸井くんは私の手を取り、スタスタと歩き出した。まさか手を取られると思ってなかった私の頬は自然と熱を持つ。「丸井くん、あの、手…」嫌じゃないし、むしろ嬉しいけど、戸惑いの方が大きい。サラサラの赤髪に向かって後ろから聞いたら、丸井くんは僅かにこちらを振り向いた。


「昨日、逃げられたからな」


悪戯に白い歯をチラリと見せて、丸井くんは笑い、また前を向いた。広い歩幅に小走りに着いていけば、先程私達の行方を眺めて歩いていた同じ学校の人達を追い抜いて行く。


「丸井くん、って……いつまで一等景品なの…?」


昨日私が聞きたいと思っていた事を、後ろから投げかける。もう目の前に丸井くんがいる以上私はこの手を離そうと逃げるようなことはしない。だから、もしまだデート権が残っているのだとしたら、そうだし、残っていないのだとしたら……この手を繋ぐ意味は、何だろうって期待してしまいそうだ。丁度赤信号の交差点にたどり着き、足を止めた丸井くんは私を見た。相変わらず手は繋がれたまま、私よりわずかに背の高い丸井くんの大きな瞳に、吸い込まれそうだと思った。


「決めていいぜ」
「え、えーっと…」


私の反応を楽しむかのように、クツクツ笑いながら手に力を込めた丸井くんは、かっこよくて、ちょっと意地悪だった。



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