「あーもー何なんだよ」



時間は真夜中、男子寮の一室で俺はベッドに潜りながら小さく呟いた。




昼間みたいな言い争いはジェームズとエヴァンスのそれの次くらいの日常になっている。俺達のは本当に些細な事から発展する事が多い。たまに自分でも馬鹿らしくなるのだが、中々止められないのが事実だった。

何なんだろうか。

アイツが、ローズがあんな風に突っ掛かってくる理由は。俺がムキになってしまう理由は。

全てがさっぱりわからない。




「……ムカつく…」
「ローズが何故突っ掛かってくるかがわからないから、かい?」




意外なところから声がした。そっと首だけ起こして見ると、微笑みながらこちらを見るリーマスの姿があった。




「珍しいな、お前が起きてるなんてよ」
「何となくそんな気分でね。それに、さっき君の呟く声が聞こえてきたものだから」




どうやら不運にも聞かれていたらしい。それにしても、まさかリーマスに聞かれてしまうとは……。こいつはジェームズ並に、いや、それ以上に面倒な奴だ。茶化すのではなく、根掘り葉掘り聞いてきそうな気がする。

俺はバレないように溜息をついた。




「最近あれ、ちょっと多くなったんじゃない?」
「そうか? まあ、確かに増えたっちゃ増えたかもな」
「シリウスがやたらとローズに構いたがるからでしょ」
「は、はぁ?!」




ちょっと待て!何で俺があいつに構いに行かなきゃなんねぇんだ!

反論しようと上体を起こした瞬間、手を滑らせてベッドから思い切り落ちた。




「大丈夫?!」




リーマスも驚いて起き上がる。俺は打ち付けた腰をさすりながら、柔らかいベッドの上に戻った。何てゆーか、別の意味で恥ずかしいだろ、これ。




「そんなに必死にならなくても」
「ありもしねぇ話ぶっちゃけられたら必死にくらいなるっつの」
「第三者視点の意見だけど?」




言いくるめられそうになり、ぐっと言葉に詰まる。笑顔でさらっと追い詰めてくる辺り、かなり質が悪い。




「まったく……好きならそうと早く認めなよ」




ゴトン。

本日二度目の転落。

うわあ、俺超カッコ悪い。

じゃなくて!




「おい! お前、す、好きってどういう事だよ!」
「あれ、本人が一番知ってるはずだけど?」
「そんな事あるはずがない!」
「ほら、真っ赤な顔して言われたって説得力ないよ」
「断じてない! そもそも何で俺があんな可愛くねえ女を」
「じゃあ、僕がもらってもいいって言うの?」




リーマスの顔から笑みが消えた。こいつのこんな真剣な表情なんて滅多に見ないのに。

そうして沈黙がしばらく流れる。何故かもう何も言えなくなって、俺はもぞもぞとまたベッドの中に潜り込んだ。




(「何だってんだよ、いきなり」)
(「そろそろ自分に気付きなよ」)






君がずっと離れない