そう、あの日は−−いつも通りの平凡な日だった。何の変哲もない、平和な日常の一コマだったに過ぎなかった。




少し強めの風が窓を叩いてカタカタなっていて、外は昨日から降り続いている雪のせいで一面の銀色に染まっている。談話室の暖炉の薪が爆ぜる音が耳に心地良い。適度に暖められた室内はとても居心地の良いものだった。

あたしは親友のリリーと暖炉の前という特等席に座り込み、いつものように魔法薬学のレポートを書き上げていた。黙々と手を動かしつつ、たまにわからないところが出て来ると教え合ったりしながら、あたしたちはその時間を過ごしていた。

平穏な空気が流れていた。




−−その時までは。








ドン!と、いきなり男子寮の方から爆発音が上がる。それと共に大きな笑い声が二人分響き渡った。




−−またか




「ポッター! ブラック! 今度は一体何をしたの?!」
「新開発の爆弾さ。結構良い出来だろ? 聞いてくれよ、これ作るのに俺達でも3ヶ月費やしたんだぜ」
「そんな事聞いてないわ! いい加減邪魔するのは止め」
「エヴァンスじゃないか! 僕の活躍をまた見てくれてたんだね?」
「誰もあんたなんか見ないわよこの変態眼鏡」




君に言われるならそれさえも褒め言葉さ!、なんて少々痛い発言をするジェームズにリリーは立ち上がり、またも突っ掛かっていく。この言い合い(と果たして言えるのだろうか)もまたグリフィンドール生からすると、日常の風景の一つと化していた。




「お、何してんだ?」




ローズ、と呼ぶ声に振り向けば、そこには騒ぎの主犯の片割れがいた。紐を巻き付けた爆弾らしきものを器用に振り回しながら、リリーが座っていた席に当然のように腰掛けた。




「魔法薬学のレポートよ。全く……よくそんなんで主席と次席独占出来るわね」
「負け惜しみか?」
「う、煩い、シリウスの馬鹿!」




不敵に笑ってみせる彼に一発お見舞いするが、それさえ軽く躱される。

そう、いつもは勉強してる素振りも見せない二人。しかし、いざ試験となると不思議な事にジェームズは主席、シリウスは次席の位置を占める程の優等生になるのだ。それこそ"天才"の域に達するような。ジェームズに関しては"鬼才"と言ってもいいかもしれない。

とにかく、ちゃんと勉強を積んでいるあたし達みたいな人間からはただの胡散臭い連中でしかない。いつか目に物見せてやる、と躍起になってみるのだが、そんな努力はもう4回も散ってしまった。5年生になってOWL試験が近付いているにも関わらず、彼らはこうして変わらず悪戯三昧の日々を送っている。

もう……ムキになっている自分さえも馬鹿らしく感じてきた。




「はあ……」
「何だよ。溜息なんかついて」
「べーつにー。あんた達はいいわねえ、頭良くてさ」
「お前も底々だろ、万年3位」
「……厭味としか取れない発言ね」
「率直な感想を述べたまでだ」




挑戦的な笑顔が何だか頭に来て、思い切り向こう臑を蹴り飛ばしてやった。




「ってーな! 何すんだよテメェ!」
「その余裕さがムカつくのよ!」
「ああ? もっかい言ってみろよ!」
「はーい、夫婦喧嘩もそこまで」
「「黙ってろこの変態眼鏡!」」




(「腹立つけど好きなのよ!」)






これもきっと日常の風景






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