「ええか、せーので交換やで」
「いいわよ」
「「……せーのっ!」」


1学期終業式。

この日に配られるものと言えば、やはり通知表。4ヶ月分の成績が事細かに記されているそれも、学生からしたら一つの競争の道具にしかならない。


「おま、学年成績3位って何やねん! おかしいやろコレ!」
「おかしくなんかないですー。歴としたあたしの実力よ」
「っかー腹立つ! こんなんに勝てるはずないやんか」
「言い出しっぺはあんたでしょ」


うなだれる成樹に、あたしはふふんと高飛車気取りに笑ってみせる。「学年成績下やった方がマクド奢りな!」と勝負を持ち掛けてきたのは、他でもないこの金髪だった。


「でもまあ、中学の時から考えたら随分上がってるじゃない。カンニング大王だったくせに」
「俺もそれなりにやったからな」


昔の彼からは想像も出来ない言葉だった。中学時代は「こんなに手のかかる奴はいない」とまで言わしめる問題児だったのに。

ま、外見は変わってないけどね。


「してもやっぱ要領良いのね。全教科平均以上じゃない」
「だって俺やし」
「その自信はどっから……」
「冗談やって」


とりあえず奢りのショックから立ち直ったようだ。またいつものように悪戯っぽく笑いながら、成樹は自分の通知表を鞄に仕舞った。


「後は選抜メンバーとや」
「あんたあいつらとも賭けやってんの?」
「食堂のタダ券賭けてな」


あたしはここで成樹が不敵に笑ったのを見逃さなかった。




「藤村が学年100位?!」
「嘘だ! 絶対嘘だ!」
「喧しいぞお前ら! 事実やてなんべんも言うとるやろ!」


喚き散らす藤代と若菜の二人。確かに、見てくれはただの不良にしか見えない成樹がそんな成績を取ってきたのだから、無理もない話だろう。


「藤代と若菜は何位やったん?」
「「仲良く下から10番目」」


ご丁寧に声を揃えて決めポーズまでとる二人に、周りは爆笑の嵐。山口なんかはツボに入りすぎたらしく、笑い始めて暫く帰って来なかった。


「結人、試験勉強ちゃんと見てやったのにその成績なの?」
「夜中に俺の部屋に飛び込んで来たじゃないか」


半ば信じられない様子の郭と渋沢が問い掛ける。ていうか、そんな事してたのね……。この二人の事だから、きっとわかるまで付き合ってあげてたんだろうな。


「水野は上から10位なのにな」
「あいつ、武蔵森に行っても優等生は維持してるんだ」
「桜上水にいた時もか?」
「あたしとトップ争いしてた」
「……お前もか」


やはり、といったように渋沢は笑みを零した。日頃のあたしの姿から大体の予想はしていたらしい。


「いっそ夏休みは勉強強化月間にしたらどうなの?」
「げ、椎名それはないって!」
「俺は賛成だな」
「キャプテンまで?!」
「宿題が終わらない、って泣き付くのが毎年恒例の風物詩だろ?」
「教科ごとに先生決めとく?」


そんなこんなで担当教師が決定した。

英語担当・椎名、姫川。数学担当・水野、郭。国語担当・渋沢。理科担当・不破、功刀。社会担当・山口。


「うっわー……俺絶対ぇ英語やりたくねえ」
「大丈夫よ、藤代。手取り足取り教えてあげるから」
「うん、姫川の授業はわかりやすそうだしな」
「ありがと、山口」
「何言ってンすか山口さん! 確かにわかりやすいかもしれないっスけど俺が言ってんのはそんなんじゃなくて」
「何か言った?」
「もう喋りません」
「それよか俺、椎名のマシンガントークについてけねえかも」
「文句あるの?」
「何もありません」


楽しい夏休みになりそうです。




夏の風物詩