2015/05/24 12:13
「‥っ」
俺とコイツは、付き合いが長い親友で。だからと言って何かある訳じゃなくて。一緒に居る時の距離感が心地良くて。お互い、踏み込み過ぎない位置にいて
これからも、その距離感は変わらないと思っていたのに。そんな考えは、甘かったという事、だろうか
「あら、お顔が真っ赤よ?タクシーさん」
「‥あ、あんた、」
「あんた、なんて嫌ね、×××って呼んで欲しいわ」
キスをされた事で焦っている様子のタクシーに、女は自らの名前と思われるモノを告げ。再び嬉しそうに腕に絡みつく
余程気に入られたようだ。大方、ホテルの住人に散々追いかけられた所でこのお人好しに会って、親切にでもしてもらったに違いない、
ホテルの気性の荒い奴らに会った後にそんな奴と接触して、優しく声をかけられ。特別危害を加えてこないタクシーに安心感を覚えて離れられなくなった。そんな所だろうな
(‥誰が一番危険かも分からないような世界で。そう簡単にヒトを信じるのは間違えている‥‥が。それに関して口出しするほど、俺は良い奴じゃねぇけど)
それでも。さ迷う時間は、少しでも長い方が良い
「おい女」
「何かしら?」
「あまり、出会って直ぐの奴に心を許さない方が身のためだぜ?」
忠告程度ならしてやっても良いだろう。その方が、魂が此方の世界のモノになったとしてもさ迷った分だけ質が上がるし、もし、此方の世界から抜け出した後の事があるのなら
人付き合いでの絶望で、再び迷い込む可能性を減らしてやれるだろう。一度抜け出せた所で、殆んどの奴はまた此方に戻ってきてしまう
それを全て鼠共に取られると、間違いなく此方に吸収される魂の数が。彼方の世界にあるべき魂の数をみるみる吸収していくに違いない
世界には、バランスがある。それを維持する大切さを忘れた鼠共に余計な分の魂を渡さないようにしなくてはいけない。今の時点で、この魂は此方に招いても、招かなくても。二つの世界のバランスは崩れないが、後々は、どうなるか分からない。
この世界から抜け出す事が出来たと仮定して、その後魂が不要な時期に戻って来られると非常に困る。
そう考えての発言だったのだが
「‥嫉妬かしら、それは」
「‥‥何?」
「お生憎様だけど、貴方よりも私の方が彼にふさわしいわ。だってそうでしょう?私は女で、貴方は男なんですもの。そもそも張り合う事が間違いなの、お分かりかしら。片目のお兄さん?」
何を、言ってるんだこの女は。俺が、どうしてあんな事を言ったか分かってない所か。俺の言葉の受け取り方を間違えている
「あのなぁ、俺は」
「貴方お気付き?私を見る目が、憎たらしいモノでも見るような、恨めしさの籠ったものになっているって事」