ナタクと私は、仲がいい。正確には私が一方的に構っているだけかもしれないけれど。しかし彼は私を鬱陶しく追っ払うことも無ければ、無表情に攻撃することも無い。むしろ、一緒に修行をするほどの仲だと思う。
「暇で、ね」
「……フン」
あれほど忙しく、そして大変だった日々が終わって、急に穏やかになってしまったこの生活が、いやに退屈に思えてしまうのは、事実だった。戦いも、下界に下りることも無いから、私は修行をする必要が無くなってしまったし、彼もまた、強くなりたいと思う反面、どう強くなって良いかわからないでいる。
風が、空しいほど心地よかった。突然カラになってしまった体を、証明してしまうようで。
「天祥くんは元気?」
「ああ…神界に行っている」
ふうん、と私はぽつり、と落とす。やっと見つけた話題すら、また音を立てて消えてゆく。
「暇ね」
「……」
彼はそれを認めたくないのか、返事はしなかった。
「全く、太公望師叔は、私たちをここに閉じ込めて……本人は勝って気ままに下界で遊び回ってるなんて、ずるいよね」
「…あいつは死んだ。何を言っている」
「あら、スープーちゃんと武吉くんが、王様に聞いたって」
「……」
そうか、と、彼は小さく呟いた。腑に落ちないのだろう、虚ろに空を見たまま、目線は動いていなかった。
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