煩い



(……熱い…)


5月の日差しはとても眩しい。爽やかな風が時々通るものの、そんなほんのちょっとやそっとの風じゃ汗ばんだ肌はスッキリしない。へばりつくワイシャツが気持ち悪い。
バカな私は、何を思ったのか長袖のセーターに長袖のワイシャツを着てきてしまった。
アホだ。






「それで、この第4段落が……」


珠美ちゃんはなんでこんなに可愛いんだろう。振りまく雰囲気がものすごーく女の子って感じ。マジ結婚したい。私が男だったら思わずプロポーズしている。それくらい可愛い。
多分学年で一番可愛い女の子は隣のクラスのなんとかちゃんじゃなくて、絶対に珠美ちゃんだと思う。男子たちもきっとそんなことを思っているに違いない。
とまあこんな感じに、私はいつものように、珠美ちゃんの授業を特に受けずにニヘニヘしていた。(だから友達に変態だとか言われるんだろうな)

国語の授業が終わって、次は移動教室だった。目的の教室は少し遠い棟にあるので、私たちは少ない休み時間をそのために走らなくてはならない。全く以って憂鬱である。
何を悲しくて休み時間を移動のためにダッシュしなければならないのか。この学園は全く不便だ。明治だか江戸だか縄文だかから始まったか知らないけど、この不便さはなんなんだ。孔明の罠か。

そんな私は、階段を3階分も降りたところで、今日提出のプリントを教室に置いてきたのに気づいた。
死にたい。


「ごめん!先行ってて、先生に遅れるって伝えて!」
「あはは、なまえはドジだなー」


友達が笑うのを背中で聞きながら、私はひたすら猛ダッシュで教室へ向かった。ダダダダ、と駆ける音が廊下に響く。チクショー、なんで特別教室(物理とか生物とか地歴とかのあれね)が別の棟(しかも遠い)にあるんだよー!鬼か!そうか孔明の罠なんだな!おk把握!


「だああああ」


ダッシュで教室に戻り、急いでかばんをあさり、ダッシュでさっき降りた階段を駆け下りる。

すると、前方に見慣れた後姿を見つけた。


「何のんびりあるいてんだ宝生綾芽えええええ」
「、なまえか」
「お前!あと30秒でチャイム鳴るよ!?」
「オレは保健室に行っていたんだ」
「え、体調悪いの?」
「ともゑが帰るんでな」
「そうかそれを口実にゆっくり歩いてんだな!ダッシュなんてこの爽やかでかっこいいオレが出来るか的な意味で!」
「(ムカッ)お前こそどうしたんだ移動教室なのに、今頃なんでここにいるんだ」
「あ、いや、その、あのですね(こいつにプリント忘れた事実を教えてたまるか悔しい)」
「あながち今日提出のプリントでも教室に置いてってたんだろ?」
「ばッ、そ、そんなことねーし!」


キーンコーン


チャ…イ………?


「ああああああ!鳴っちゃったじゃん!クソ、宝生綾芽に関わったせいで……!」
「オレのせいか。お前が絡んでくるのが悪いんだろ」
「ハァ!?人が親切にチャイムまであとどれくらいって教えてやったって言うのに…」



生物の先生は校内でもとても厳しい先生である。(分厚い眼鏡で融通が聞かなそうで、後頭部がやや残念になりつつあるので、生徒の間では“窓際”と呼ばれている。)遅刻1分で減点という鬼のような先生である。(ただでさえ移動教室なのに!)(ただでさえ遠いのに!)
ああああ、と私が悶えていると、宝生綾芽が「ったく……」とかため息をするのが聞こえた

次の瞬間、


「わふっ!?」
「オレが弁明しておいてやる」


いきなり私の腕を掴む、宝生綾芽。そして奴は私の手首を掴んだまま走り出した(うわ何こいつ足速えええええ)(ちょ、こ、転ぶッ)


でもなんだかやけに、掴まれた腕を気にしてしまって


(………いやいやいやいやいやいや)



心臓がバクバクするのは、宝生綾芽が速く走ってしまうからに違いないし

なんだか熱いのは、この5月の日差しの中を走っているからに、決まっている



(………ないないないないないない)





















クラスの声(うわあ青いなあ)

「#甘甘」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -