「プールしようか、ユゥイ」
「プール!?するー!」
ユゥイはきゃはは、と高い声で笑った。それにつられて、オレもなまえも、笑顔になってしまう。子供の笑顔というのはどうしてこうも、周りをひきつける力を有しているのだろうか。
「ビニールのでしょ?おにわでやるやつ!」
「そうよ。水着用意しておいで。」
「はーい!」
たたた、と二階に上がる軽快な足音を耳にして、オレは胸が幸福で満たされるのを知った。
なまえを見れば、愛しくて仕方がない、といった笑顔をしていた。一瞬目が合って、オレはなまえに近寄る。
「プールは倉庫だっけ?」
「うん、確かそう。私が行くよ?」
「重いし、オレが持つよ」
「だってファイ場所わかるの?」
「……わかんないかもー?」
「もう、ファイってば。」
おかしくて、互いに笑った。ふふ、となまえの可愛らしい声が聞こえ、オレは、その頬に触れる。すこし暑さで火照った、赤い頬はやわらかくて、すべすべしている。
大学の友人でも、子を生んだ後にお母さんらしく(とても母性的な意味で)なってしまう人をいっぱい見てきた。子供にばかり目を向けるお母さん。育児に追われ、どこか疲れ気味の彼女たちをオレは多く知っている。
でも、なまえは、ユゥイを生んでからさらに美しくなったように思う。以前よりももっとやわらかくなった目元や、ゆったりした体のライン、伸びた髪。どれをとっても、なまえはもっと美しくなった。これが女性の神秘の姿なのだ、と思わざるを得ない。
「綺麗」
「はやく、プールださなくちゃ」
「っ…待って……」
「…?」
立ち上がろうとしたなまえを引き寄せ、ぎゅ、と抱きしめる。
鼻を掠める、甘い柔らかな匂いに、オレは、理性が少し揺らいだ。(お母さんの匂いだ) なまえは、少し驚いていた。
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